SNSでの誹謗中傷が深刻な社会問題となっている。「顔が見えない匿名の存在」として、自分本位の〝正義感〟を拠り所に、理不尽な言葉の暴力によって相手を攻撃する人たちの心理とはどのようなものなのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏が識者に話を聞いた。
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著名人が誹謗中傷により自殺したり、社会問題ともなっている「SNS上の誹謗中傷」問題。ドイツのスタティスタ株式会社が世界各国のSNS利用状況を調査したところ、日本は米国に次いでX(旧ツイッター)の利用者が多く、約6700万人もがXを利用しているという。
総務省の「プラットホームに関する研究会 誹謗中傷の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」で2023年10月に三菱総合研究所が発表したデータによると、「他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)」を見たことがあるSNSツール第1位はXであり、66%もの利用者が「見たことがある」と回答している。また、18.3%の利用者が誹謗中傷による被害を経験していて、その被害を受けたSNSツールの53.9%がXである。
誹謗中傷の投稿が最も多く見られるSNSであるXの利用者が世界2位であるという状況から「日本は誹謗中傷の数が世界2位」だという説もある。なぜ日本で誹謗中傷が多いのだろうか。
臨床心理師・公認心理師で「サイコドクター」など複数の漫画のモデルになった黒岩貴氏は、筆者の取材に対して「誹謗中傷が日本で多いとされているのは、Xの利用者数が多いからでしょう。X利用者数が世界一のアメリカが誹謗中傷の数も1位だとされていますが、イギリスにも皇室バッシングなどの誹謗中傷が多く見られます。ただし、カリフォルニア大学の研究チームの発表によると、誹謗中傷をしているのは世界のわずか0.6%の人たちです。その人たちが複数のアカウントを作り、あたかも誹謗中傷する人数が多くみられる、というケースもあります」と解説した。
さらに、黒岩氏は「誹謗中傷をする心理としては覆面性(※顔が見えない)と、匿名性(※誰だか分からない)ので、ふだんの自分ができないような事ができてしまうのでしょう。そして、誹謗中傷する人の傾向として『自分が正しく、相手が間違っている極端な正義感』を持ち、仕事をしていなかったり、割と暇な時間がある人。誹謗中傷されて苦しんでいる方々には誹謗中傷するのは実際に僅か0.6%しかいないから、悩まなくてよいですよ、ということをお伝えしたいですね」と付け加えた。
ごく一部のノイジーマイノリティ(過激な少数派)が目立つがゆえに、実際より強い影響力を持つような錯覚を与えているだけで、99%以上はサイレントマジョリティ(物言わぬ多数派)なのである。