1年の締めくくりとなる大みそかの「NHK紅白歌合戦」。近年、「紅白と言えば…」という存在になった歌手が2019年から今年まで6年連続で紅組トリ(20、21、23、24年は大トリ)を務めるMISIAだろう。代表曲の「Everything」(00年)や「明日へ」(11年)を作曲したピアニスト・音楽プロデューサーの松本俊明は幅広い作品を生み出したことで知られる。その多作の背景などについて話を聞いた。(文中敬称略)
MISIAは12年の紅白初出場時に「Everything」と「明日へ」を熱唱。15年と18年の出場を経て、初めて紅組のトリを務めた19年には多様性を示すレインボー・フラッグが掲げられる中、「アイノカタチ」「INTO THE LIGHT」からの〝ハウス・メドレー〟で再び「Everything」を披露した。21年には「明日へ 2021」と題して「Higher Love」(藤井風とのコラボ)の前に「明日へ」が歌われた。
松本は「MISIAさんの曲は私の〝名刺代わり〟のような曲になっていますが、『Everything』もエバーグリーンな曲になっていて、ありがたいことです。いまだにカバーされたり、カラオケで歌われたり…。この曲が最初と思われがちですが、僕が一番最初にMISIAさんに書いた曲は『忘れない日々』(99年、4枚目のシングル)というCMでも使われた曲。僕にとって2曲目が『Everything』でした」
MISIAだけでなく、手がけた歌手は幅広い。郷ひろみ、田原俊彦、稲垣潤一、岩崎宏美、工藤静香といった有名歌手をはじめ、JUJUの「この夜を止めてよ」は11年のレコード大賞優秀作品賞を獲得。異色曲としては高見のっぽ「グラスホッパー物語」(NHK『みんなのうた』)が親しまれている。
また、深田恭子、深津絵里、松たか子、松雪泰子ら女優に書いた曲も。さらに、森昌子、坂本冬美、天童よしみといった演歌の大御所の名も連なるが、いずれも〝演歌〟にはこだわらない作風で、映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル」の主題歌となった小林幸子の「さよならありがとう」もその系譜に連なる。
1990年にフジテレビ系で放送された〝東映不思議コメディーシリーズ〟の「美少女仮面ポワトリン」で主演の花島優子が歌ったエンディングテーマ2曲「悲しみに一番近い場所」(第1話~28話)と「あなただけ Change Me」(第29話~最終回の第51話)も松本の作曲。伝説となった作品と共にマニアの記憶に刻まれている。
「今はR&Bや演歌などジャンルが分かれてきていますが、昔は演歌も歌謡曲も書いている人がいた。僕の原点は子どもの頃に学んだクラシック。最初に始めたのはピアノとバイオリンで、その反動かもしれませんが、中学生の頃からジャズピアノが好きになった。だから幅広く、クラシックのギタリストやジャズシンガーなども含め、いろんな人に曲を書いています」
その多様性の要因について、松本は「自分の中が『スケルトン』(透明)みたいな感じで、いろんな音楽を体の中に入れるようなところがあると思います。基本的に『いい音楽はいい音楽』なのであって、ジャンルにこだわらない」と付け加えた。
今年の大みそか、通算9度目出場のMISIAは2年連続4度目となる大トリで「紅白スペシャル2024」を歌い、迎える元日は能登半島地震の発生から1年となる。被災地での炊き出しやチャリティーライブを行ってきたMISIA。名誉園長を務める「MISIAの森」(石川県森林公園)もある。一方、松本が11月にリリースした10枚目のアルバム「レクイエムの森」には能登復興への祈りが込められた。タッグを組んできた2人には「能登」という絆もあった。
年が明ければ、松本が小さなトラックの荷台に1台のピアノを乗せて行く不思議な旅を描いたNHK BSの番組「にっぽん♪ピアノ旅」が1月10日(午後8時30分〜同59分)、同26日(午前9時30分〜同59分)に放送される。訪れるのは雄大な北アルプスを臨む小さな山里・長野県小川村。トラックの止まった場所が即席のミニコンサート会場だ。能登と同様、各地で地元の人たちとの交流を続けていく。
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【にっぽん♪ピアノ旅の特設ページ】
https://www.nhk.jp/p/ts/2G9Y3K2P47/