宮崎県南部で8日に発生した震度6弱の地震は震源地が南海トラフ巨大地震の想定震源域内ということで、近い将来に向け、大きな不安が広がっている。こうした状況の中、大ヒットしたアニメ映画が今回の地震を予言していたとする風説がネット社会で拡散しているという。ジャーナリストの深月ユリア氏が、その説を主張する識者を取材した上で、研究機関の見解を聞いた。
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宮崎県で8日に発生した最大震度6弱の地震が2022年11月に公開された新海誠監督の震災をテーマとした映画「すずめの戸締まり」で予言されていたのではないか?という都市伝説がSNS上でささやかれている。
「すずめの戸締まり」は震災孤児の女子高生「すずめ」を主人公にした冒険物語だ。ある時、すずめは不思議な扉に遭遇するが、その矢先、日本全国に次々と扉が出現し、開かれていくことで様々な災いが起こる。すずめは各地の扉を閉めようと、旅に出る。
映画の舞台は宮崎県とされていて、劇中、最初に出現する扉は大分県の旧豊後機関庫がモデルとされている。次の扉は愛媛県にある中学校、三つ目は兵庫県にある神戸おとぎの国という遊園地、最後の扉は福島県の帰宅困難区域となっている。映画では描写されていないが、小説では神戸と福島の間に東京の皇居への扉も描写されている。
そして、偶然なのか、 映画で描写されている「災いの扉」のモデルになった場所で、同時刻、現実に地震が起きているのだ。今年4月5日、同作が日本テレビ系で地上波初放送された後、同8日に宮崎県で震度5弱の地震、同17日に愛媛県で震度6弱の地震が発生。そして、今回の地震も宮崎県で起きた。
都市伝説にも詳しい作家の天野統康氏は「 『すずめの戸締まり』と宮崎の地震には共通点があります。映画で15分に出てくるシーンで震度6弱と宮崎沖の地震の震源地を描いた場面があります。さらに、1時間2分に出てくるシーンで『16:43の緊急地震速報』の画面があります。つまり、震度も震源も時間も同じなのです。 宮崎地震は予告されていたのではないか、という説があります」という。
ただし、映画の(開始後)1時間2分(時点)のシーンの描写は都内にあるアパートとなっていて、宮崎県ではないので、「偶然の一致ではないか」とも言われている。
大気中の重力波やノイズ音(音の周波数)を計測することで地震予測を行っている研究機関「株式会社麒麟地震研究所」(三重県伊勢市)の山村賢司所長は「そんなことはないと思います」と〝予言映画〟とする見方を否定した。
さらに、山村氏は「宮崎県は比較的地震が多い場所です。映画の舞台になった東北も地震が多いです。一番リスクが高いのは、三陸沖の太平洋プレートのアウターライズ地震(※プレート境界を挟んで海溝外側で起きる地震)です。プレートが外れて、海底がずれ動き、東日本大震災の2倍以上の津波が発生する可能性があります」と述べた。
なぜ「すずめの戸締まり」の舞台が宮崎県なのかについても、新海監督は23年1月に宮崎日日新聞やMRTテレビ「Check!」の取材で「(古事記に記された)天岩戸伝説からのインスピレーション」と回答している。
「天岩戸」の場所については諸説あるが、宮崎県高千穂町には「天岩戸神社」がある。「すずめの戸締まり」が予言映画なのかは不明だが、作品には「(東日本大震災が忘れられないように)今描かないと、10-20代の観客と震災についての思いを共有できなくなる」という新海監督のメッセージが込められているという。東日本大震災はもちろん、阪神・淡路大震災、能登半島地震からの教訓を生かして地震に備えたい。