東京都知事選(7日投開票)で3選を目指す現職の小池百合子氏(71)が告示から3日目の6月22日、初出馬した2016年に続いて、選挙戦で最初の街頭演説を八丈島で行った。その存在は今、改めて注目されている。同島出身の歌手・畑中葉子(65)が開催した凱旋ライブを取材した際に島内を回り、八丈町の山下奉也町長(71)や、島おこしの活動に携わる芸能人らに話を聞いた。
本州の東京から約280キロ離れ、羽田空港から約55分で到着する〝近くて遠い〟島。住民が乗る車は品川ナンバーだ。駐車場に並ぶ「品川」という文字を目の当たりにすると、「そう、ここは東京」と実感させられる。畑中が「13歳の時に八丈島を離れて東京に引っ越しました」と語った時に違和感はなかったが、行政上は東京都八丈町だ。
山下町長は、よろず~ニュースの取材に対して「(本州側の)東京のことは島言葉で『クニ』って言うんですよ」と説明した。ただ、島外の者との会話において「クニ」では伝わりにくいので、やはり「東京」ということになる。
同町の人口は公式ホームページによると、7月1日現在で6886人。山下町長は「島から出て行く人も多いですけど、入ってくる方もそれなりにいる」とし、「全国で4%ほどしかない『自立持続可能性自治体』の65自治体の中に八丈町が入っています」と付け加えた。
民間有識者による「人口戦略会議」が4月に発表した「自立持続可能性自治体」は、30年後の推計で20-30代の若年女性人口の減少率が20%未満の自治体を指すが、八丈町は「-19.5%」で都内唯一の自治体になった。
山下町長は「農業や漁業といった1次産業がしっかりしています。移住者では観光関連産業が多く、飲食関係も増えていている」と補足。昨年公開され、大ヒットしたアニメ映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」の舞台となったことも影響している。同町長は「コナンの聖地巡礼はやっぱり大きかった。(今年の新作公開後も)まだ、ファンは来られています。あとは釣りとかですね。(交通手段として)全日空が羽田空港から3便の枠を持っているのも強い」という。
では、文化状況はどうか。畑中のライブ会場「ポットホール」は約100席だが、天井は高く、太く長い柱に支えられた外観は昭和期の建築遺産を思わせた。島内最大の施設は2階建て462席の多目的ホール「おじゃれ」 。2014年、こけら落としで上演されたミュージカル「桃太郎と不思議なキノコ」に出演した女優・森口彩乃(37)と芸人・サブロクそうすけ(48)は5月に行われた畑中のライブでゲスト共演した。
森口は17年公開の映画「最低。」(瀬々敬久監督)でトリプル主演を務めた女優の1人。テレビや舞台でも活躍してきた。札幌出身だが、八丈島出身の母が島内でレストランを経営。父も同居しているため、「実家が八丈島の女優」としてYouTubeで島のPRを続けている。
森口は「10年前も東京と八丈島のコラボレーションということでミュージカルを企画させていただき、そうちゃん(サブロク)も出くれました。来てみないと八丈島の魅力は分からない。いずれ自分もここに戻ってきたいと思っているので、若い人が住みやすい島であるように、今後も色々な活動を続けたい」と意欲を示す。
サブロクは京都出身の父が移住した八丈島で生まれ、小学5年まで同地で育った。「小6で埼玉の大宮に引っ越しましたが、中学生になっても夏になると島に帰り、小学校時代の同級生たちと遊んだ。海が大好きだったから」と語る。
実際、八丈島は自然の魅力と迫力にあふれている。火山から流れた溶岩で形成された海岸はSF映画に出てきそうな不思議な世界観があり、海の幸が豊富な海にはクジラも姿を見せる。サブロクは「八丈島ゆかりの方たちと一緒にイベントをやれて楽しかった。ぜひ続けたい。八丈島に観に来ていただいて魅力を知ってもらえたら」と故郷をアピールした。
畑中が子ども時代に親しんだ「流人祭り」は昭和期に消滅したが、新たな世代によって島の文化は引き継がれていく。