タンカー船員の求人事情がSNS上で大きな注目を集めている。
「一般の高卒新人さん(未経験で無免許)のタンカー船の初年度給料を計算。そしたら手取りで約27万➕タンク掃除手当が3万ちょい。てことは月30万越え。3ヶ月乗って、休暇の給料も含めたら、ひと月の休暇で使えるお金が100万超えてる。『もうこの生活から戻れない』って言ってた。なのに人不足なのなぜ?」(原文まま)
と自社の事情を紹介したのは東幸海運株式会社代表取締役の笹木重雄さん(@shigeonisan)。
厚生労働省が発表した令和5年賃金構造基本統計調査によると高校新卒者の平均給与は18万6800円。それに比べると笹木さんの挙げる条件はかなり好待遇のはずだが、なぜ人不足が起こっているのだろうか?
SNSユーザー達から数々の驚きの声が寄せられる今回の投稿について笹木さんにお話を聞いた。
ーータンカー船員の待遇についてどう思われますか?
笹木:当社のタンカー船は国内のみの航路でガソリンなどの石油製品を運ぶ仕事です。タンカー船の乗組員は約3か月間乗船して住み込みで働き、約1か月間連続で休暇になるサイクルの繰り返しになります。
このため乗船するたびに、社会人にとってはなかなか取れない長期の休暇をまとめて取ることができるのが大きなメリットです。長期の海外旅行やリゾートを楽しみたい人には向いているといえます。
その他のメリットとしては、乗船中の食事や作業服、飲み物(アルコール除く)やお菓子もは会社から支給されるため、お金をためやすいことや、通勤も秒単位になるので満員電車に乗る必要がないこと、日本中のいろんな港に行けること、釣りが好きな人は船を止めている自由時間に釣りを楽しめることなどです。
デメリットとしては、海上での集団生活になるので、乗船中は自由に買いものに行けないことや、石油製品を運ぶため、お酒やたばこについては制約があることなど。仕事の4時間前からは飲酒禁止で毎回アルコールチェックがあり、たばこは指定箇所でのみ喫煙可能です。
ーー人不足の原因についてお考えをお聞かせください。
笹木:一番の原因はタンカーの船員という知名度が低いことだと思います。石油を運ぶタンカーだというと、海外に行くイメージや、外国人が乗っているというイメージがありますが、日本はガソリンなどをあまり輸入していません。海外から輸入されるのは原油であって、日本国内の製油所という工場でガソリンや灯油、軽油、ジェット機の燃料や船の燃料の重油が作られます。
このように製油所で作られたガソリンなどの石油製品を国内各地にある港のタンク設備に配って回るのが石油タンカーのお仕事です。この国内の石油タンカーには基本的には日本人しか乗ることができないと定められているため、日本人の船員さんを集める必要があるのですが、知名度が低い仕事なので、なり手が少ないと考えています。
また、船の仕事を知っている人の中にも、専門の学校を出ていなくてもなることはできるのに、「船の免許がないとなれない」「商船大学を出てないとなれない」のように間違った思い込みをされる人もいらっしゃるようです。実際にSNSを発信するようになってから「若い時に知ってたら、自分も船員になったのに」と言われることが多いです。
ーー投稿の反響へのご感想をお聞かせください。
笹木:この投稿はあまり興味を持たれないだろうなと思っていたので、予想外に広がって驚いています。特に当社のお給料は平均よりほんの少し高い程度のものですので、「もっと高い会社もある」というコメントは予想通り来ましたが、「そんな仕事があることを知っていればなったのに」という反応や、「3か月も家族と離れて暮らすなんて無理」「船酔いするから船は無理」というご意見もいただきました。
また、女性でもなれるのですか?というDMもいただいたので、当社には4名の女性の乗組員がいることを伝えエントリー方法をお伝えすることもできました。もちろん誰にでもハマる職業や働き方ではないと思います。でも、連続して働いて、長期の休みを取りたいという人も世の中にはいらっしゃると思います。
なので、多くの人にタンカー船の船員さんという職業を知っていただき、向いていると思う人にはぜひ挑戦していただきたいと思っています。
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東幸海運ではYouTubeチャンネル「東幸海運タンカーの日常」やXで普通の人が見ることのできないタンカー船の日常を発信中。普段使っているガソリンや灯油などの石油製品がどのように運ばれるか、またタンカー船員がどんな仕事か興味のある方はぜひチェックしていただきたい。
※東幸海運株式会社のタンク清掃手当は6隻のタンカー船のうち5隻が対象
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