HG 「ハッスル」でギャラ未払い、大ケガも経験 それでもプロレス讃歌「レスラーはもっと尊敬されていい」

山本 鋼平 山本 鋼平
映画「家出レスラー」で演じたレフェリー役の衣装で、熱いプロレス愛を語るHG=都内
映画「家出レスラー」で演じたレフェリー役の衣装で、熱いプロレス愛を語るHG=都内

 プロレスにまい進していく中、2008年からハッスルの経営が悪化の一途をたどった。同年下半期からギャラの未払いが始まったという。09年2月にはインリン様こと、インリン・オブ・ジョイトイ側がハッスルを提訴し、経営難が表面化した。「皆がギャラをもらっていない状況でした。僕も吉本(興行)に対して『ハッスル側から振り込まれていません』『マジか』というやり取りがあったんです」と回想した。

 後楽園ホール大会での出来事だった。天龍にギャラのことを尋ねた。「天龍さんは『オレももらってないよ』と言うんです。そして『こんなのプロレス業界では〝あるある〟だから。今は目の前にいる後楽園のお客さんを満足させろ。全力を尽くせ』と話されました。天龍さんといえば、お笑い界では(ビート)たけしさん、(明石家)さんまさん位の立ち位置の方が、ギャラをもらわずに『全力で試合をやろう』と話すことに本当に感動しました。それを見た皆が一丸となって、興行を盛り上げようと切り替えられました。未払いのままで1年くらい頑張ったことは、とても印象に残っています」

 しかし、限界が訪れた。2009年7月26日の両国大会で、高田総統(高田延彦)、ボノちゃん(曙太郎)らがハッスルを離れた。4日後の後楽園大会、メーンはHGとTAJIRIの一騎打ちだった。「控室から入場口に向かう細い階段に座って、セミファイナルの音だけを聴いていました。RGと天龍さんのタッグマッチ(対越中詩郎&KG)だったんですかね。歓声がすごくて、盛り上がってたんですよね。じゃあメーンはもっと盛り上げないと、いい試合をしないと、とプレッシャーを感じていました」。試合終盤だった。場外へ空中技(プランチャー)を仕掛けた際、着地に失敗。左足かかとを粉砕骨折した。

 長期入院を余儀なくされ、芸人の仕事もできなくなった。収入がほぼなくなった。その状況を見かねたのか、吉本興業からハッスル未払い分から相当の額が、HGに支払われたという。「当時、ハッスルから吉本に月2万円返済があると聞きました。RGの分と合わせて、何十年かかるんやろう、と思いましたね」。ハッスルは同年12月、新団体SMASHにKGら所属選手が大量移籍する格好で、実質的な消滅を迎えた。HGは翌年春に芸能活動を再開するとともにプロレスからの引退を表明。同年秋にDDTで限定復帰しているが、「僕が復帰できるころにはハッスルはつぶれていて、後味の悪い感じで終わってしまった」と、残念そうに話した。プロレスラーとしては、ハッスルとともに終幕を迎えたのだろう。

 映画「家出レスラー」で描かれる岩谷麻優とは、約2年半前、スターダムのCS番組でMCを務めることを機に接するようになった。「ハッスルが終わってからもプロレスは見ていますし、プロレスラーへのリスペクトはハンパないと思っています。もっと稼いでいいし、もっと尊敬されていい、と常々思っています」と熱いプロレス愛を語り、岩谷に対しては「スターダムを見るようになって思ったのは、やはり岩谷選手はアイコンなんですよ。試合もそう、後輩への立ち振る舞いをもそう。尊敬できるレスラーの半生を描いた作品に参加できて嬉しいです」と語った。

 映画ではスターダムの経営危機に直面する中で、〝ポンコツ〟だった岩谷に覚悟が芽生え、アイコンとして成長を遂げる姿が描かれる。現在はスターダム社長に就いた岡田太郎氏は、同志社大の学生プロレス後輩にあたり、映画ではプロデューサーの立ち位置だった。「彼が撮影現場を仕切っていたんですけど、後楽園ホールでのクランクアップであいさつするのを聞いて、選手のことを考えて求心力があるな、と思いました。今、ロッシー小川さんが辞めて大変な時期ですけど、プロレス業界が盛り上げるとポジティブに切り替えていて、素晴らしいと思いますね」と、頼もしく見つめている。

 岩谷をモチーフとした主人公・マユを演じた平井杏奈に対しても「プロレスの動き、入場の所作、歩き姿とかも完璧で、同僚レスラーが本人と間違えるほどの役作りでした」と感心したHG。「夢を見つけられなくて悩んでいる人、一歩踏み出せずにいる人みんなに刺さる映画。プロレスを知っていても知らなくても楽しめると思います」とアピールした。

 4年弱のプロレスラー人生。「芸人とプロレス、2つの夢をかなえられたんですから、贅沢な人生ですよね」。そう語ったHGの表情は、とても誇らしげだった。

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