ソロデビュー45周年を迎えた歌手の畑中葉子(65)が18日、故郷の八丈島(東京都八丈町)で「八丈島からの手紙 in 八丈島」と題した記念イベントを開催する。多彩なゲストを迎えるが、一夜限りの公演として「点」で終わるのではなく、島の活性化への「線」になればという願いが込められている。畑中はよろず~ニュースの取材に対し、その構想のモデルとして〝昭和の伝説〟となっている「流人(るにん)まつり」の復活を掲げた。
八丈島で生まれ、13歳まで過ごした。1978年、作曲家・平尾昌晃さん(2017年死去、享年79)とのデュエット曲「カナダからの手紙」で歌手デビューし、大ヒットして紅白歌合戦にも出場。79年からソロ歌手となり、翌年に「後から前から」がヒット。俳優としても活躍したが、90年代以降は二児の母として育児に専念し、10年代から芸能活動を再開した。一昨年には37年ぶりのシングル曲「夜雲影」、昨年はデビュー曲に重ねたタイトルの新曲「八丈島からの手紙」を双子ラッパー・上鈴木兄弟、さいとうりょうじ(ギター&作曲)のユニット「P.O.P」とのコラボで配信リリースした。
今回のイベントでは、「八丈島からの手紙」を出演者全員がそれぞれの持ち歌や演奏とは別に披露。畑中、P.O.Pに加え、八丈島出身の芸人・サブロクそうすけ、父が同島出身であるシンガー・ソングライターの倉沢桃子、母が同島出身の女優・森口彩乃が出演。さらに、畑中と縁のある尺八奏者・豊岡雅士、三味線奏者の太田洋介、箏曲家の森川浩恵といった邦楽奏者が地元の八丈太鼓の会や樫立(かしたて)踊り保存会と共演し、地元でヒップホップダンスを学ぶ子どもたちや恐竜の着ぐるみ「ティラノサウルス」も参加する。
畑中は「島内で楽しむイベントはあるんですが、外から人を呼ぶことがなかなかできていない。きっかけになりたいと思った時、それが『今』だった。昔あった『流人まつり』を復活させたいと思ったんです」と明かす。
八丈島は東京から南へ約300キロ、羽田空港から55分で到着する。クサヤ、明日葉、焼酎…と名物は数々あるが、数百年に渡って「流人の島」だった歴史で知られる。八丈太鼓や樫立踊りも、そのルーツは流人にたどり着く。罪を犯した者だけでなく、関ヶ原の戦いで西軍に付いて敗れた宇喜多秀家といった武将、時の権力に疎まれた知識人などもおり、「流人まつり」は先達の鎮魂と共に、そのイメージを逆手にとって仮装パレードなどで盛り上がったという。
畑中は「島にいた中学1年(72年)まで『流人まつり』を見てきました。八丈島のメイン通りに、お相撲さん(紋付きはかま姿)、プロレスラー、歌手などが来られ、(一般の島民ら)他の方々は今で言うコスプレで行列するというお祭りでした。ハワイアンや腹踊り、鼓笛隊もありました。時期は8月の終わり頃だったと思います。デビューした年には平尾先生と一緒に私もゲストとして参加させていただきました」と懐かしみ、「その祭りが、いつのまにかなくなってしまったんです」と残念がった。
「今回の準備をする中、『流人まつり』がなくなった理由を地元の方に尋ねると、(スタッフの)人手不足や、『流人』という言葉のイメージが悪い…という声があったということでした。でも、『流人』って若い人には知らない人も多いし、外の人に興味を持ってもらうのにすごくキャッチーだと思います。流人のお祭りって、伊豆七島の中でも八丈島だけだったんですよ。『遠山の金さん』など時代劇のドラマで『八丈島に遠島を申しつける』というセリフに登場するわけですし、宇喜多秀家のように戦に負けた武将も流されているわけで、歴史に興味のある人を外から呼ぶこともできる。八丈島にしかできないことをやっていかなくてはと」
「流人まつり」の名物だった仮装もヒントになる。畑中は「コナンのキャラクターのコスプレをしている人などに来ていただけたら」と、昨年公開されて大ヒットしたアニメ映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」の舞台が八丈島だったことに注目。「1月の最初の方にある八丈島パブリックロードレースはすごく人気があり、夏は観光客でホテルが満杯になるので、それ以外の繁忙期ではない時期にできれば」とイメージを膨らませる。
八丈島の人口は同町のHPによると、5月1日現在で6909人。畑中は「私が住んでいた時は1万3000人くらいでした。何年か前に7800人と聞いていましたが、今では6000人台に。そんな状況の中、私より若い世代の40~50代の人たちが応援してくれているので、一緒に考えていきたいなと。外に住んでいる人間が余計なことを言ってはいけないかも…と思ったこともあったんですが、この先、私もどこまで元気でいられるかということを考えると、『私には私の八丈島がある』という思いで、言うべきことは言い、『1つになろう』というテーマを今回のライブで伝えたい」と力を込めた。