医療現場の「働き方改革」臨機応変を求めたい 昔のやり方通用せず、手術ストップする先生も… 医師が語る

谷光 利昭 谷光 利昭
画像はイメージです(ASDF/stock.adobe.com)
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 私が医師になった頃は、無給無休が横行する時代でした。病院で勉強させて頂いているので、給料をもらえているだけで感謝しなさい…という感じです。実際に給料をいくら貰っていたか、給料明細を見たことがなく、家内に「ハンバーガー屋さんの時給の半分くらいやで」と言われたこともあります。

 実際に医師になりたての頃は、漠然といい医師になりたいという思いだけで、すべての苦しみを乗り越えていたように思います。今は、医療現場にも「働き方改革」という考え方が押し進められ、昔のやり方でついてくる医師はまずいないでしょう。

 私が大好きな漫画「ブラックジャック」にも、研修医と指導医の争う場面があります。手術を早くやりたい研修医と、知識、技術ともに未熟なうちは手術をさせないという方針の指導医との攻防です。思い起してみると、私自身が執刀医として、自信をもって手術ができるようになったのは8年目くらいからです。それくらい長い年月をかけて勉強をしました。

 研修医の時期というのは、砂が水を吸収するように知識を吸収する大事な時期です。本来、この時期に色々と制約をつけて、勉強の自由を奪ってはいけないのでは…と思えてなりません。医療だけでなく、どんな職種、業界の仕事場でも、完璧な規則というのは存在しないと想像しますが、この辺りを考えて対応することが大切ではないでしょうか?

 このような“規則”を盾にして仕事をしている医師も少なからずいるようです。何をするのにも、権利を前面に押し出し、時間外手当が出ないならば手術の最中にでも手を下ろす医師がいるという話を聞きました。耳を疑いたくなる話ですが、それを咎めると、その医師は退職するので、手術の最中に手を下ろすのを認める医療機関もあるようです。

 個人的には、全く理解できない感覚ですし、「しょうがない」という言葉で済ますことは私には無理です。そのような責任感で患者さんを治療していいのだろうか?と強い疑問を抱きます。

 もちろん、医療の現場だけが無理をしたらいいとも思いません。実際、昨年も私の住んでいるところの近くで、若手医師による痛ましい過労死があり、大きく報道されました。医師も人間です。すさまじい時間外労働や極端に少ない休日は改善されるべきですし、そこでは「働き方改革」の考え方が生かされるべきでしょう。

 しかし、我々が他の仕事と違うのは、患者さんの生命とダイレクトに向き合い、治療する責任があるということです。「生命」は計算通りに動いてくれるとは限りません。医療従事者が仕事をする際に、規則だけで完全な“区切り”をつけては、患者さんや我々にとって悲しく、悔やまれるケースが出てくるのではないでしょうか。

 やむなく規則を破って仕事をした場合、その後の勤務や休日などで、その医師をフォローする態勢作りは難しいでしょうか。「働き方改革」は大事です。けれど、医療は臨機応変も大事。「不適切」にはならないように、大切な事も考慮する必要があるのではと、私は思います。

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