韓国年間最長No.1記録を樹立した、史実に残された最大の謎に迫る<全感覚麻痺>サスペンス・スリラー「梟ーフクロウー」(邦題)が、2月9日より全国公開となる。本作のメガホンを取ったアン・テジン監督は、本作が初監督作品ながら、韓国エンターテインメント界の最高峰を決める「百想芸術大賞」で作品賞・新人監督賞・男性最優秀演技賞の3冠を受賞したほか、さまざまな映画賞でその栄誉を手中に収めた。
そんなアン・テジン監督にインタビューを行い、「梟ーフクロウー」にどんな思いを込めて演出を手がけたのかを聞いた。
※インタビューは物語の内容に触れている部分があります、ご注意ください。
―アン・テジン監督は「梟―フクロウ―」で監督だけではなく、脚本も担当されました。
アン・テジン「私が『梟―フクロウ―』の監督と脚本のお話をいただいた時の企画内容が『視覚障害を抱える人物が宮廷に入り、何かを目撃する物語』というものでした。私は初めてこの病気を知り、その特性が〝目撃者スリラー〟というジャンルに適しているなと思い、提案を引き受けました」
―本作の主演を務めた、リュ・ジュンヨルさんとユ・ヘジンさんの印象を教えてください。
アン・テジン「ユ・ヘジンさんはよく知っている関係なのですが、ご一緒するのは久しぶりでした。ユ・ヘジンさんは顔合わせでお会いした時、すでに王である仁祖(ジンソ)が憑依しているように完成されていて、さすがだなと思いました。そしてリュ・ジュンヨルさんですが、彼は映画全体を見て演じる俳優という印象を受けました。俳優の多くは、まず自身の役を考え、演じることに集中します。それは普通のことだと思うんです。でも彼は賢明な方で、ご自身の経験をうまく生かして作品そのものを見て、感じて演じていました。演出をやらせたら、きっとうまいだろうなと思いましたね」
―「梟―フクロウ―」は、最後まで緊張感のある作品ですよね。この高い緊張感を維持するために、演出で工夫されたことがあったら教えてください。
アン・テジン「主人公の視線=観客の視点になるよう、常に意識していました。そしてリュ・ジュンヨルさん演じるギョンスが劇中、ある真実を目撃することになるのですが、それを見たことによって生じた絶望や悩みなど、ギョンスの抱える感情を観る人にも一緒に味わってもらえるような演出を心がけました」
―そんな緊張感を緩和するように、パク・ミョンフンさん演じるマンシクがクスッと笑えるポジションとして登場したのが印象的でした。
アン・テジン「〝緊張〟の対にあるのは〝緩和・弛緩(しかん)〟ですよね。緊張を高めるには緩めることが必要だと思い、マンシクに道化的役割を担ってもらいました。この作品では、ギョンスが初めて重要な事件を目撃するまでのランニングタイムがあるのですが、観客の皆さんがそれまでに退屈しないよう、ユーモアを入れようと思いました。ある意味重要な大役を、パク・ミョンフンさんが演じてくださいました」
―昼間の明るいシーンと夜の暗闇のシーン、とても対照的な雰囲気でした。演出する際、それぞれ意識したことはあったのでしょうか。
アン・テジン「目が見える人にとっては明るい昼の方が安心すると思うのですが、ギョンスにとっては負の時間なので、明るくても恐怖が感じられるように演出しました。照明監督が最新装備を買いそろえるほど、非常に苦労させてしまいました(笑)」
―撮影中、印象に残っているエピソードはありますか?
アン・テジン「撮影初日のことをとても覚えています。実はギョンスがひげをつけるか否か、この日まで決まっていなかったんです。なので撮影初日なのに、リュ・ジュンヨルさんに午前中、顔にひげをつけたり外したりを繰り返していました(笑)。そんな調子だったので、僕は初日で監督をクビになるかもしれないと、内心ビクビクしていたんです(笑)」
―監督が気に入っているシーンがあったら教えてください。
アン・テジン「韓国で上映された時に、観客の多くの方たちも〝気に入っているシーン〟と挙げられたのですが、ギョンスが昭顕(ソヒョン)世子(キム・ソンチョル扮)の死んでいく姿を目撃したシーンです。この場面は本当に長い時間をかけて、精魂込めて作ったシーンでして、特に気に入っています」
―「梟―フクロウ―」はさまざまな映画授賞式で28冠(1月18日付)と、多くの賞を手にされました。この快挙について、率直な思いを聞かせてください。また受賞後、ご自身や周囲に変化などはありましたか。
アン・テジン「受賞の際、たくさんお褒めの言葉をいただいたのは照れくさかったですが、やはり気分がいいものでした。そして作品を一緒に作り上げたスタッフや俳優の苦労が報われて、彼らにお祝いの言葉を伝えられるのがうれしいです。それに賞をもらったと言い訳して、お酒を飲む理由ができたのも良いですね(笑)。変化と言えば、家族がすごく喜んでくれたことです。特に母の笑顔をたくさん見られるようになったことが大きいですね」
―本作が初監督作品だと伺いました。諦めることなく続けてこられたモチベーションは、どこにあったのでしょうか?
アン・テジン「僕がくじけたり諦めそうになった時、家族がたくさん励ましてくれました。その叱咤激励は大きかったと思います」
―監督が次回作として考えられている構想やジャンルがあったら伺いたいです。
アン・テジン「今はソウルを舞台に、人工知能を使ったアクションスリラーを撮ってみたいなと考えています」
―2月9日に「梟―フクロウ―」がいよいよ日本で公開されます、日本の観客へメッセージをお願いします。
アン・テジン「日本の方たちがこの作品を観て、どんなことを感じるのかとても気になります。他国で作品を上映してもらう時、いつもワクワクと恐怖が心の中で交差しますが、どうか楽しんで観てもらえたらと願っています」
◆アン・テジン(あん・てじん)大学で映画学科を専攻し、2004年に映画「達磨よ、ソウルに行こう!」に演出スタッフとして参加、翌2005年には映画「王の男」で助監督を務める。以降、自身でも脚本を執筆しながら映画スタッフとして従事。そして51歳で映画「梟―フクロウ―」で監督デビューを果たす。同作は「第59回 百想芸術大賞」映画部門作品賞を受賞したほか、監督自身も「百賞芸術大賞」「ディレクターズカットアワード」「韓国映画評論家協会賞」「青龍映画賞」など、多くの映画授賞式で新人監督賞を受賞した。
「梟ーフクロウー」
2024年2/9(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
盲目の天才鍼医ギョンスは、病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。しかし、ある夜、王の子の死を〝目撃〟し、恐ろしくも悍(おぞ)ましい真実に直面する。見えない男は、常闇に何を見たのか―? 追われる身となった彼は、制御不能な狂気が迫るなか、昼夜に隠された謎を暴くために闇常闇を駆ける―。絶望までのタイムリミットは、朝日が昇るまで―。
監督:アン・テジン
出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン
2022年/韓国/118分/原題:올빼미/英題:THE NIGHT OWL/日本語字幕:根本理恵/G/配給:ショウゲート
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