9月29日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物学の父”といわれる植物学者・牧野富太郎の人生をモデルとした物語で、同作をきっかけに植物を見る目が少し変わったという人も多いだろう。一方、それ以前から植物の魅力に触れている人も大きな変化を実感。道端での植物観察に「好意的な声をかけられることが増えた」と話す。
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「これは僕以外にも多くの草好きが感じていると思うんですが、『らんまん』が始まってから、道で草を見ていると好意的に声をかけられることが格段に増えたんですよね」
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X(旧・ツイッター)にそう投稿したのは、樹木医でインタープリターの瀬尾一樹さん(@kusanonamaesay)。著書「やけに植物に詳しい僕の街のスキマ植物図鑑」(大和書房)をはじめ、都会で見られる身近な植物を発信している。その仕事柄、道端で植物の写真を撮る傍ら、趣味も兼ねた植物観察をすることが多いという。
普段何げなく見ている道端。そこにも多種多様な植物たちがたしかに命をつないでいる。瀬尾さんは「それらの暮らしを観察するには、道に這いつくばらなければいけません」と話す。
腰を浮かせたままでは成立しない植物観察。しかし、事情を知らない人からすれば、ただ道に這いつくばっている人。「コンタクトか何か探しているのかと思った!」と話しかけられたり、「何してるんだろうね?」と怪しまれたり。「私は成人男性なので声をかけづらいのか、直接声を掛けられるというよりは不審者を見る目で見つめられることが多いです」と放送前の状況を明かした。
知ろうとしない限り開かない植物の扉。その扉が「らんまん」によって開かれたことで状況は大きく変わった。「朝ドラでやってたわよね!」「君も研究をしているのかい?」と声をかけられることが増えたという。「いつもの不審物を見る目ではなく、孫を見るような慈愛に満ちた目をしていたと思います。普段なら、そういった目で、そういった声を掛けられることはまずありません」と朝ドラの影響力を実感している。
「らんまん」が変えた道端の植物、あるいは観察者を見る目。しかし、瀬尾さんはその目が長くは続かないことも理解している。既に次作「ブギウギ」が2日から放送開始。その次、その次と重ねるごとに「らんまん」は勝手に過去のものになり、温かい視線もいつしか元通りになる。
瀬尾さんは「千載一遇のチャンスが今、訪れています」と訴える。そして、「らんまん」で植物の世界に少しでも興味を持った人に呼びかけた。「堂々と道に這いつくばれるのは、『らんまん』によってその行為が市民権を得ている今だけです。みんなの記憶から『らんまん』が消える前に急いで這いつくばりに行きましょう!」。