還暦の蝶野正洋が明かす師・猪木さんへの思い、闘病生活の公開を巡る考え方「背中を見せること」の覚悟

北村 泰介 北村 泰介
新刊の著書『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』を手に単独取材に応じた蝶野正洋=都内
新刊の著書『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』を手に単独取材に応じた蝶野正洋=都内

 プロレスラーの蝶野正洋が新刊『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)を世に出した。リストラ、役職定年などで背負っていた肩書がなくなった主に50代以降の世代に向けた著書となる。昨年10月に死去した〝師〟アントニオ猪木さん(享年79)や自身が歩む道についてなど、17日に還暦を迎えた〝黒のカリスマ〟に話を聞いた。

 蝶野は1984年4月に新日本プロレスに入門し、同年10月、同期の武藤敬司戦でデビュー。来年でプロレスラー人生40年となる。現在はリングから遠ざかっているが、アパレルブランド「アリストトリスト」の経営者にして、救急救命、防災などの社会貢献活動、タレントと多彩な活動を続け、〝肩書き〟から自由な生き方を体現している。

 著書では、猪木さんにも言及。蝶野はよろず~ニュースの取材に対し、思いを吐露した。

 「俺は小さい頃から、親に『飽き性だ、あなたは長続きしない』と、ずっと言われたこともあったんですけど、新日本に25年在籍して、プロレスもやめず、アリストも今年で23年。プロレスの世界で社会人になって、どこか自分の中で『もう、あきらめたい』という心を我慢して続けてきたという感覚がある。猪木さんについては、いい所を見てきた一方、反面教師とまではいかないですけど、『俺はそうしたくない』と思う所もあった。猪木さんは猪木さんだし、そういう時代が生んだ人だなと。それぞれの生きている時間軸というか、人生は違いがあるというか、そのようなイメージで俺は猪木さんを見てきましたね」

 新刊の中、蝶野は猪木さんが晩年に開設したYouTubeチャンネルで闘病生活を公開したことに対して「つらかった」と個人的な思いをつづった。プロとして「身だしなみ」にこだわってきた猪木さんを知る蝶野としては、〝ありのままの姿〟をさらけ出している映像に違和感を持ったという。一方で、「猪木さんにはこうあってほしい」という理想像は人それぞれであるという客観的な視点も明示しつつ、自身は21年末に手術した脊柱管狭窄症からの回復過程を公開することには慎重な姿勢を示した。

 「(YouTubeでの闘病生活公開について)そこは猪木さんの本意ではなかったと俺は思っています。残念だなというか。俺自身、車椅子に乗っている自分は見せたくない。この本でその話を書いている時は手術から1年満たないくらいのところで、本当に自分でちゃんと歩けるようになるのかと、まだ先が見えない中だった。手術後、諦めずに治療とリハビリをして、少しずつ元に戻ってきているところです」

 近年は「眠れない苦しみ」に悩まされてきたことも明かした。

 「今は手術を終えて2年目。それ以前に苦しんだ時期が3年あって、計5年近く、この50代は(人生で)一番きつかったなと。手術前の一昨年くらいは痛み止めを飲んでも眠れず、1時間寝られたらいいような日々が半年以上続いた。そこから脱出して寝られるようになって、杖をつかずに歩けるようにもなったので、(人目につかない時間帯の)夜中1時くらいに犬の散歩をしていたんですが、引っ張られて転んで顔面を打ったりして。だから(今年2月にリングで相手を務めた)武藤さんの引退試合では、つまずかないように、転ばないように…と、そのことだけしか考えていなかった」

 そうした道程を経て迎えた還暦に思う。

 「去年くらいは、『60か。でも、関係ないな』と思っていて、むしろ、70とか75に向けて、どうカムバックできるか、自分が歩けるようになるかということばかり考えていた。だから、60代は通過点でしかなかったんだけど、いざそうなると、目の前に『線』が見えてくるわけですよ。もっと先を見ていたつもりだったのに、その線に気づいた。そんな感覚です」

 ただ、人生の佳境に入ったからといって、盛大な引退試合的なプランについては「自分の目指しているゴールではない」と明言。むしろ、これまで続けてきたリング外の社会活動で、中堅世代になった後輩たちとの協力関係を視野に入れた。

 「東日本大震災の時、何かやらねばならないという思いから行動してきたんですが、キャリア20年、30年になってボロボロになって頑張っている後輩たちも、その先に社会貢献的な生き方もあると。ビジネスを追求して成功を収める生き方も当然あるんだけど、同時にボランティアなどもやっていけると思うんで。猪木さんの背中を見て、俺は俺なりにできることをしてきて、次は後輩たちに自分の背中も見せなきゃいけないという思いです。我々も先輩にそういうふうにして支えられてきたわけだし。中には悪い人もいましたけど(笑)。人生、これからも長いです。俺も含めて50代、60代の人たちはキャリアを生かして次世代に何かを伝えるという役割があると思います」

 60歳からの新たな歩みが始まった。

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