廃校舎をリノベした水族館 「子ども」ではなく「大人」をターゲットにした理由 みなとやま水族館1周年

藤丸 紘生 藤丸 紘生
学校の椅子に座って、水槽内の生きものの世界をじっくりと観察(みなとやま水族館・展示室)
学校の椅子に座って、水槽内の生きものの世界をじっくりと観察(みなとやま水族館・展示室)

 廃校になった小学校跡地にオープンした「みなとやま水族館」(兵庫・神戸市内)が7月1日に開館1周年を迎え、現在「1st Anniversary展」(8月31日まで)を開催中。ターゲット層は「自然との触れ合いから離れてしまった大人」という同水族館の魅力に迫った。

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 2015年に惜しまれつつも廃校となった湊山小学校。その跡地をリノベーションしたコミュニティー型複合施設「NATURE STUDIO」内にある小さな水族館、それが「みなとやま水族館」だ。昨年7月にオープンし、校舎のワンフロアに約250種の生きものたちが暮らしている。

 引きずると大きな摩擦音がする椅子、ランドセルを入れていたロッカー…。最大の特徴はやはり学校の懐かしさを感じながら、生きものの世界にどっぷり浸れるということ。館内のいたるところで学校の備品を再利用。椅子に腰かければ、大型水族館では味わえない距離感・目線で水槽内の生きものを観察できる。

 コツメカワウソ、ミナミトビハゼ、サカサナマズ…観察が楽しめるように、特徴的な動きや常に動き回っている生きものを中心に展示。さらに、一部の水槽前には「さぁ、じっくり観察してください」と言わんばかりに、クッションソファまで置かれている。記者も体験してみたが、水槽とソファを組み合わせられると、そう簡単に腰を上げられない。

 同水族館の担当者は「生きものたちを座ってじっくり観察して、没入感や時間を忘れて夢中になっていただきたい」と説明した。

 また、“廃校舎を再利用した水族館”ということで、ついターゲット層は小さな子どもたちと思いがちだが、実は「自然との触れ合いから離れてしまった大人」だという。これが特筆すべきもう一つの特徴だ。

 「一度離れしまった自然ともう一度ここで近づいてもらって、生きものと対話していた時間を取り戻していただきたい」と同担当者。目を見張るほどの大水槽もなければ、ここでしか出会えない派手な生きものがいるわけでもない。しかし、懐かしい空間に包まれ、より近い距離で観察する経験はここでしか味わえない。

 子どもに寄りすぎない工夫は、各生きものの解説文にも表れている。例えばコイ科の淡水魚・オイカワの解説文にはこうある。

 「婚姻色がきれいな魚。オスの臀びれはメスに比べて長くなります。」

 見ての通り、婚姻色(こんいんしょく)、臀(しり)などと振り仮名をつけていない。他の生きものの解説文を見ても、一部を除き、振り仮名はなし。デザインも必要以上にポップにしない素朴なものを採用している。

 スタッフも少数で、オープン時には6人で現場を運営。この春に新入社員を1人迎えて7人になったが、今でも一人一人が飼育係からレジ打ちまで、幅広い役割をこなしている。同担当者は「とにかくオペレーションが大変で、日々『今日はこういう問題が起こった』みたいなことを話し合って」と当初の苦労を明かした。

 開館から1年。今回の企画展では、これまでオペレーションの関係で実現できなかった解説コーナー「みなとやま生きものタイム」を開催。さらに、企画展ブースも新設し、頭文字をつなげて言葉ができる「メッセージ水槽」や、開館までの道のりを映像におさめた「1st Anniversary Movie〜みなとやま水族館ができるまで〜」も上映している。

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