企業で働くLGBTQ当事者の声を集めたフリーマガジン『BE』(Indeed Japan)第2号の発行記念イベントが6月に都内で開催された。登壇した人たちの中、「トランスジェンダー男性」であることをカミングアウトして働き、自身の家族を持つに至った多和田真希さん(33)の思いを紹介する。
多和田さんは沖縄県出身。前職では理学療法士としてデイサービスセンターに勤務していたが、ピラティス・インストラクター養成講座に通うなどしてスキルアップし、今年4月からスタジオと業務委託契約を結んだフリーランスのピラティス・トレーナーとして都内で働いている。「ピラティス」とは、体幹やインナーマッスルと称される体の深層部にある筋肉を鍛えるエクササイズ。現在、多くの人の健康維持をサポートしている多和田さんだが、新卒の就職時には「カミングアウトせざるを得なかった状況」に直面したという。
「私は女子大学生でした。大学まで女性として生活していて、社会人になるのを機に男性に移行しようと決めていたので、面接の際にカミングアウトしたのですが、その職場には前例としてトランスジェンダーの方がいらっしゃらなかったようで、人事の方にいただいた言葉が『私たちはまったく偏見を持っていません。ただ、多和田さんがどういうふうに働いていきたいか、意向を聞きたい』ということで、個別面談を行って、お互いの方向性を丁寧にすり合わせていただいた。そうしたことが今の自分にとって、すごくよかったなと思っています」
これまで2回ほど経験した転職先でも、トランスジェンダー男子であることを事前に伝えたという。多和田さんは「どの職場も『自認する性』を優先していただきました。制服が男女に分かれている会社だったのですが、私は男性制服を着させていただいたり、トイレや更衣室も男性の方を使用させていただきました」と振り返る。いずれも、理解のある職場に恵まれた。
「今の職場であるスタジオでは、履歴書を提出して面接した後に、『私は、元々の性別が女性でした』と示し、『かといって、特別に何かをして欲しいというわけではなく、人として扱ってほしいというだけなんです』と伝えると、『分かりました』と理解していただきました。お互いに『してほしいこと』を明示していくことが関係を作りやすいことかと思います」
そうした経験を踏まえて、多和田さんは提言する。
「セクシャリティーは自分を構成している一部分でしかないと思っていて、例えば『趣味としてキャンプが好きで、カードゲームや映画鑑賞も好きで…』というのと同じくらいの感覚で、セクシャリティーについても、いい意味での『ラフ』に捉えていただければ、カミングアウトした時に『そうなんだね』くらいで終わる。それが一番の理想だと私は思っていて、企業の上層部も含め、そういう意識を持った社員の皆さんが増えていくと、カミングアウトする、しないに関わらず、当事者の方にとって働きやすい職場になるのではと思います」
自身の記事も掲載された無料冊子の『BE』第2号は6月22日に発行。同日、都内のブックカフェ「文喫 六本木」(7月6日まで同誌とのコラボ企画開催)で行われたイベントで、多和田さんは一般参加した当事者たちとのグループセッションの中、当事者が直面する「家族」との関係を明かした。
「(関東の大学に進学後)、沖縄に帰省して親にカミングアウトした時は大号泣されて、まったく話にならなかった。それから、親に対する『遅めの反抗期』になって会わなくなってしまったのですが、両親も周囲の方々に相談してアドバイスを受けながら、『(実家で対話するために)帰ってきなさい』と言われるようになった。そして今、私には子どもがいます。血はつながっていなくても、(実の)孫のように、おじいちゃん(父)はかわいがって受け入れてくれている状況です。ここに至るまで、時間は要しました」
自身が築いた「家族」について、改めて本人に確認した。
多和田さんは、よろず~ニュースの取材に対し、「シスジェンダーの妻が精子提供で出産しまして、2歳の長男と1カ月の長女がおります。相手(パートナー女性)側のご両親から『子供がかわいそうだ』と言われたこともあったのですが、そういう時代が変わっていって、そういう(家族の)形も当たり前になっていければ…という願いを込めて、これからも過ごしていきたいです」。2児の父として、多様性のある家族の在り方を認める社会の到来を望んだ。