発明家のドクター中松氏(94)が18日、都内の東京国際フォーラムで、議長を務める「世界天才会議」開会式に出席した。1986年に米ニューヨークで初開催され、今年で37回目。米国、モロッコ、タイ、台湾など10の国・地域から〝天才〟約200人が参加した。テープカットを終えた中松氏は日本への提言、自身の夢を語った。
94歳ながら自らの足で歩き、英語スピーチの最後は「バンザ~イ」と両手を挙げて締めくくった中松氏。「世界から注目される会議で、世界中から天才が集まってくれた」と感慨深げに話した。19日の最終日には今春の野球WBCで優勝した「侍ジャパン」に団体天才賞を贈るという。
〝天才〟の定義とは。「努力する人、他の人より秀でた成果を出す人、常にハングリーな人のことで、私が東大で講義した際に言ったのは『スジ・ピカ・イキ』です。『スジ』は理論、『ピカ』はひらめき、『イキ』は実用化。この3つの条件を持っている者が真の天才である」とした中松氏。ただし、天才が世に貢献するために大切なことがあるという。
「まずは我が国の役に立つこと。我が国の役に立つことが、世界の役に立つ。私は『イノベーション・イズ・ラブ』と言っていますが、愛がなくちゃいけない。つまり、思いやりの心で困っている人を助けるとか、傲慢(ごうまん)にならない姿勢が基本。人のために、という心が大事です」
発明家として長らく活躍してきた中松氏にとって、現在の日本をどのように捉えているのか。「非常にみじめな状態です。例えば米国の憲法には発明で国を進歩させるというものが入っていますが、日本には一切ない。米国は発明を奨励し、日本では発明家は頭のヘンな人というイメージすらあるが、日本を救うには発明しかない」。AI、ドローン、スマートフォン、宇宙ロケットなど、進歩に伴う課題は多岐にわたるが「私は既にその先を発明しています。これから発表していきますからね」と不敵に笑った。
後進に向けては「やはり教育でしょう。経験、知識がない若者を先輩が導くこと」と年長者の責任を口にした。最近は闇バイトで若者が実行犯として消費され、重い罪を背負う構図を挙げ「根本的に道徳の教育がされていない。発明の『スジ・ピカ・イキ』のスジには相手に迷惑をかけないことなども含まれる。日本の産業力の低下も発明、開発力の低下に原因がある」と国家の衰退を嘆いた。
現代の日本人の生き方には否定的だった。「努力しなくても適当に生きられればいいや、ではなく、もっとアグレッシブに前向きに物事を解決しようとし、それは道徳に基づくものであってもらいたい」と訴えた。海軍機関学校時代を「精神、肉体を鍛える場でしたが、一番はしつけをされました」と振り返り、「今はしつけがされていない。銀座の宝石泥棒のような未成年が生まれるようになってしまった」と指摘した。
日本を立て直すため、期待を寄せる個人、組織を問われると「いませんね。だから後進のために、こういう活動をしている」と言い切った。理想を求め、幼児教育分野に進出する計画が浮上しているといい、今秋に米国で準備に入るプランを口にした。日本の若者向けの発明家協会の立ち上げにも意欲を示した。
6月に95歳になる中松氏。立ち姿のみならず、口調のスピード感、会話の流れなど、その元気さに驚く。「僕は世界最長寿を目指していますから」と、個人としての目標を掲げた中松氏。「人間は肉体と頭で成り立ちます。定期的に20キロのウエイトを使った筋トレを行い、プールは1・8キロ泳ぎます。食べ物も厳選しています。頭の方は午前0時から明け方4時まで、毎日研究しています。一番頭が働く時間です。トレーニング、食事、頭、この3つが大事」と、努力を重ねていることを明かした。
食事のこだわりについては「牛乳?悪いですね。肉?悪いですね。お米と麦は最高ですね。魚はサバ、イワシがいいですが、面白いのは一番いいのは缶詰なんですよ。毎回食事の撮影を行い、採血して検査して、比較しながら何が体にいいか研究しています」と語った。
中松氏のホームページによると、発明数は既にエジソンを超えている。「発明件数は既に世界一なんだけど、寿命も世界一になろうと思います」とキッパリ。凡人には計り知れぬ熱量の大きさが垣間見えた。