日本全国には数えきれないご当地キャラやヒーローが存在する。そして、彼らの背景にはそれぞれのストーリーやエピソードがある。しかし、彼ほど「不運」な物語を持つヒーローキャラは他にいないのではないだろうか。
名前は「バカチンガー」。福岡県の民放テレビ局「FBS福岡放送」がつくりだしたヒーローキャラだ。彼は、たった一つの理由で地上波に出られないという。
まさかというか。トップに嫌われているからだそうだ。
◆エエッ!出演開始の直前に「待った」がかかる
そもそもバカチンガーは、FBSのSDGs推進プロジェクトの一環として誕生した。世の中のネガティブな事象に「バカチンガー!」と叫び、愛ある説教を展開する。「福岡をもっと明るくする」がモットーである。モデルはきっと「金八先生」の「この、ばかちんが~」。福岡県出身の俳優、武田鉄矢氏にあやかったそうだが、事務所に許可を得てるのだろうか。少し心配である。
当初、企画はすこぶる順調に進んでいた。予算はきちんと割り当てられ、着ぐるみやアニメ、主題歌まで制作された。局の番組にどんどん出演させ、ゆくゆくは「福岡を代表するキャラ」を目指す|。だが、しかし、運営を担当する編成部が抱いていたそんな思惑は、一瞬にして崩れ去った。なんと出演の直前に「待った」がかかったのである。
トップに嫌われているからだそうだ。
◆弱点が強みに、地元「西日本新聞社」と共同企画
嫌われちゃった理由はこれかもしれない。
「人にバカと言うのはどうなの?」
運営メンバーは、金八先生のオマージュであることや、説教には愛が込められていることを必死で説明した。しかし、全面的な理解は得られなかったという。それでもバカチンガーはへこたれなかった。倒れても倒れても、何度でも立ち上がって悪の組織に挑むヒーローのように、苦境に立ち向かったのである。
地上波以外なら…と何とか許可を得ると、TwitterやTikTok、YouTubeで愛ある説教を日々発信した。しかし、ネットの世界は甘くない。フォロワーの伸びはかんばしくなかった(ちなみに今もそう多くはない)。試行錯誤をしていた今年2月、地下に潜っていたにもかかわらず、地元の新聞社「西日本新聞社」のアンテナに引っかかった。
バカチンガーの存在を面白がった西日本新聞社はFBSと連携し、ニュースサイト「西日本新聞me」の中でお悩み相談「バカチンガーの言うてみんしゃい」(https://www.nishinippon.co.jp/theme/bakachinga/)を企画。かつて「ギター侍」などで一世を風靡し、現在は福岡在住の波田陽区、ローカル番組が全国でも人気になっているゴリけん、バスケBリーグ選手や地元人気アナウンサーも次々と出演。テレビ局と新聞社の奇妙な連携は一部で話題になるなど、福岡での存在感はちょっとずつではあるが大きくなっている。だが、今のところ地上波に出る予定はない。
なぜならトップに嫌われているからだそうだ。
◆ドラマにイベント、仕事は引っ張りだこ
もう1年以上も「地上波NG」のヒーローキャラ。この記事の冒頭で「不運」と紹介したが、決して「不幸」ではない。SNSや西日本新聞との企画で見せる熱量の高さに共感する人は少なくなく、コアなファンが増えているのだ。Huluのドラマ「社畜OLちえ丸日記」では俳優デビューも果たした。多くのスポーツイベントに呼ばれたり、4月にはリーアム・ニーソン主演の映画「メモリー」の地元宣伝隊長に選ばれたりすなど、地上波以外では引っ張りだこ状態だ。「福岡をもっと明るくしたい」という思いは、確実に形になっている。
一昨年までFBSで人気番組のプロデューサーを務め、現在はバカチンガー運営メンバーの1人である藤谷拓稔氏は吠える。
「こうなったら意地です。地上波にどれだけ出ずにバカチンガーを浸透させるか」
ちなみにFBSのトップはバカチンガーを嫌っているとされるが、藤谷氏やその他の運営メンバーとの関係は良好だという。藤谷氏が宣言する通り、今後も精力的な活動や積極的な「露出」が予定されている。テレビ局が生んだ不運だけど不幸ではないキャラ「バカチンガー」。いつか、活躍の場を広げ、よろず~ニュース編集部にも来てほしいものだ。
◇「バカチンガーの言うてみんしゃい」