「NO」の意味で使う若い世代の「無理」が日本人の意識を変える?識者が提唱する「無理しない生き方」

北村 泰介 北村 泰介
画像はイメージです(78art/stock.adobe.com)
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 昨今、「Z世代」などと称される、主に若い世代の間で「無理」という言葉の使い方が変わってきたという。例えば、依頼を断る際に「NO」の意味で「無理です」と答える場合などだ。「無理をして頑張る」ことを美徳とする価値観からすれば「情けない」などと批判の対象となるが、「無理をしない」生き方を肯定する考え方もある。今年出版された書籍『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)の著者でコラムニストの石原壮一郎氏(60)に話を聞いた。

 石原氏は「自分を窮屈にしている『~ねばならない』からの脱却」を108項目の実例を挙げながら本書で説いている。

 例えば、「今日できることを明日にしてオッケー」。そのココロは「できないことを無理にやろうとして、やっぱりできなくて自分を責めるのは不毛」だからだ。また、「断捨離はしなくてオッケー」については「捨てることが目的になってしまう。『もっと捨てなければ』というプレッシャーや焦燥感、捨てられない自分に自己嫌悪が生じてしまう。本来は身軽にスッキリするためなのに本末転倒」と指摘。「ダラダラしてもオッケー」に関しては「何かを成し遂げなければならないという『有意義至上主義』」に疑問を呈し、「何もせずダラダラしている間も『ダラダラする』という行為を成し遂げている。それもまた価値のあることではないか」と無為な時間も受け入れる。

 その背景には著者自身が「無理のできない年齢」になったことによる心境の変化があったという。

 この3月で還暦を迎えた石原氏は、よろず~ニュースの取材に対して「昔なら多くの人がリタイヤしていた年齢ということをチラッと考えてしまい、すぐに引退する気はないにせよ『ギアチェンジのタイミング』という意識はある。ただ、『もう歳だから』と縮小体制に入るというよりは、大人としての新しい境地に入ったぐらいの気持ちで、これから先を穏やかに楽しく生きるためにどうするかを考えたい。そこで、間違いなく言えるのは『無理をしてはいけない』ということ」と説明。「還暦に花を咲かせましょう」「笑う還暦には福来たる」と心意気を掲げつつ、「いろいろと揺れるお年頃ではあります」と付け加えた。

 そうした思いを背景に、当節の若者が発する「無理」という言葉が、「24時間戦えますか?」的な空気が漂うバブル期に20代を過ごした〝アラ還世代〟の心にスルッと入ってきた。依頼に対して「できません」ではなく「無理です」。恋愛対象として名前を挙げられた不本意な相手に「無理」…。

 石原氏は「若い世代は日常的に『無理』をNOの意味で使うことで、無意識のうちに『無理はしなくていい』『無理なことは遠ざけていい』と考える習慣が付いているように思う。『無理』という断り方が広まれば、やがて日本人の意識が変わっていく気がする」と指摘する。

 「無理」はささいな日常の中でも「無理をしないで良かった」「無理はしないと思いながら無理してしまった」といった思いとなって交互に繰り返される。

 石原氏は「私の場合、例えば、反論されたり絡まれたりすると、口調は穏やかなままでも、内心はけっこうムキになって言い返していたが、『無理をしない』というスタンスでいいんだと思ってからは『いろんな意見の人がいるなぁ』ぐらいで心穏やかにスルーできるようになった。逆に『無理してしまったこと』でいうと、気が乗らない飲み会に出席して、帰ってきてどっと疲れることが数か月に1回ぐらいある。行く前からそうなる予感はあっても、断わる勇気が出ないばっかりに」と具体例を挙げた。

 新刊が世に出て1か月余り。読者からは「嫌いな人とは無理に仲良くしなくていいと気づけたのは、目からうろこだった」「『無理』をやめたら、肩が軽くなって呼吸が楽になった気がする」「ダメな自分を許してあげられるようになった」といった声がある一方、「やっぱり自分は無理しないではいられない。『無理して頑張っている自分』が好きなんだろうと思う」という正直な意見もあったという。

 石原氏は「勝つ必要もないのに無理をして人に勝とうとする人にこそ、『知らず知らずのうちに無理をしている自分』や『無理をすることの無意味さ』に気づいてもらいたい。若いうちは『人を押しのけて先に行く』という気持ちも必要かもしれないが、60を超えてそういう気持ちを持っても、自分を疲れさせるだけ。それよりも、心を穏やかに保って落ち着いて考えるという『得意分野』を伸ばした方がいい」と提言した。

 その一方で、同氏は「…と、思いつつも実際にはなかなか『邪念』を払拭し切れない」とポツリ。いくつになっても、生きている限り、誰もが「煩悩」(まさに「108」)を抱えていく。

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