東京出身の俳優が神戸に骨を埋める決意固めた「1・17」被災者の願い 東京との「目線の違い」

北村 泰介 北村 泰介
看護師のスタッフらと共に難病の子どもと家族をサポートする公益財団法人「チャイルド・ケモ・サポート」代表で俳優の堀内正美(中央)
看護師のスタッフらと共に難病の子どもと家族をサポートする公益財団法人「チャイルド・ケモ・サポート」代表で俳優の堀内正美(中央)

 東京で生まれ育った俳優が神戸に移住後、1995年に発生した阪神・淡路大震災を体験し、その支援活動をライフワークとしてきた。17日で震災から28年。NPO法人「阪神淡路大震災1.17希望の灯り」の設立者で俳優の堀内正美(72)が、よろず~ニュースの取材に対し、「神戸に住むということ」というテーマで、これまでの歩みを振り返った。(文中敬称略)

 73年に俳優デビューして10年となる節目、堀内は元々志望していた演出の勉強をやり直したいという思いの傍ら、「東京で流されていく感じがして、一度、東京から離れた場所でものを考えたい」と思うようになっていたという。「適度な都会で、海がある。また、義兄が神戸で調剤薬局をやっていて、その仕事を引き継げば俳優をやめても薬局で家族を食べさせていけるという助言もあって84年に移り住みました」と振り返る。

 先輩の名優たちを「引き寄せた」という逸話も。

 「同じ事務所で姫路出身の藤岡琢也さんに『僕、神戸に住みます』と伝えると、『そんな、わざわざ…。俳優は東京を目指すのに』と言われましたが、1年後くらいに『正美、俺もそっちに住むよ』と(西宮市の)苦楽園に居を構えられた。すると、芦屋雁之助さんが『ほりうっちゃん、神戸に住んでんねんて?ええとこか?」と聞かれるので、『最高ですよ』と答えると、うちのすぐ近くに家を買い、さらに(弟の)芦屋小雁さんも神戸に来られた」

 「匿名」でいられた東京に比べ、神戸では「匿名と実名の狭間にいる」という。

 「震災前、ラジオ関西(神戸)で朝の番組をやっていた時に『最近、おいしい梅干しがなくて。昔のように酸っぱいのがいいよね』と話して、その日の番組が終わって神戸の東山市場(商店街)で嫁さんと買い物をしていたら、お店の人が『これ、食べてみ』と梅干しを出してくれるという、東京では味わったことのない経験をした。この街を大事にしたいなと思った」

 故郷の東京に俳優として〝出勤〟する立場に変わり、改めて「目線の違い」を感じた。

 「今も東京に行って痛感するのは、高いものに囲まれている中でどうしても目線が下に行くんですよ。神戸にいると山と海があって目線が上に行く。窓を開けると山がある。海では遠くの波や雲、太陽…。自然と目線が上に行く。神戸に来て心が開いた感じがあった」

 被災して1週間後にボランティア団体「がんばろう神戸」を結成し、避難所を回った。そこで被災者から投げかけられた「お願い」が現在も俳優を続ける原動力になっている。

 「最初の内、『堀内さんは東京者だから、そのうち東京に帰るんでしょう』と言われましたが、2年、3年とたつ内に『堀内さん、ほんまに神戸が好きなんやな。私たちのためにやってくれて』と言っていただいた。その後で『一つお願いがある。私たちを支援してくれるのもいいけど、テレビや映画に出て欲しい。画面の中にいる堀内さんを見て『この人は友だちや!と自慢したい』と言われたんです。そうか…と。震災後、もう俳優をやらなくていいかなと僕の中では思っていた。でも、そう言われた時に、それで役立つなら『ご当地俳優』になろうと。ワンシーンでも僕が出ていたら、神戸の人たちに『あいつは俺の知り合い』と言ってもらえるように。今ではウェブ上で僕のことが『神戸の俳優さん』になっていて、それがうれしい」

 震災だけでなく、別の角度からも社会活動を続ける。21年には難病の子どもと家族の宿泊施設「チャイルド・ケモ・ハウス(愛称チャイケモ)」 を神戸で運営する「チャイルド・ケモ・サポート基金」 の代表理事に就任した。

 「震災で『希望の灯り』を作って、生と死に向き合う中で、東京の地下鉄サリン、明石の歩道橋、大阪の池田小学校…と、自然災害だけじゃない、事件事故によって理不尽に家族を奪われたご遺族に共感していこうと活動を広げていく中で、病気と闘うお子さんとご家族もサポートしたいと。先端医療技術のある神戸の病院には沖縄や四国など、主に西日本から治療を必要とする子どもたちが来て、3、4か月生活をしなくてはいけないことになる。そこで、家族が〝我が家〟のように過ごせる環境を提供できれば」

 自身も神戸を〝我が家〟として今年で40年目。「東京と距離があるという意味では、役者として出演回数的な面で不利はある。ただ、表現者として存在することも大事なんだけど、一人の人間として生きていくという意味で、僕の場合は神戸という街を選択したことに間違いはなかったと思います」。神戸の「ご当地俳優」として、昨年は映画『シン・ウルトラマン』に「ちらっと(笑)」出演。今年は『映画刀剣乱舞 黎明』(3月31日公開)に登場する。

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