ある部屋に閉じ込められた男性が、助けを呼び続けるもむなしく、そこから出ることができないまま、不思議な余韻を残して物語の幕を閉じる短編作品『あのへや』。ドラマチックな展開や、刺激的なセリフもほとんど描かれない、一見すると何の変哲もないこの作品が、「男は絵になってしまったんじゃないか」「あの有名な絵画と何か関係があるんじゃないか」と、コアな漫画ファンからさまざまな憶測が飛び交う、話題の作品となっている。
このミステリアスな作品を描いたのは、漫画専門店まんだらけが運営するWebマガジン『ボヘミア』で連載を持つ、作家の愚劣翁吐遮物(ぐれつおうとしゃぶつ / @toshyabutu)さん。掴みどころがない作品にも関わらず、読むほどに味わいが増す本作について、愚劣翁吐遮物さんに話を聞いた。また、本記事ではこの短編をはじめ、『ボヘミア』掲載の作品も併せて紹介する。
「ナンダコレハ!」が創作の原点
もともと映像制作に取り組み、Amazonプライムで配信されている作品『トオリ雨』などを監督した経験を持つ愚劣翁吐遮物さんは、どのような理由で漫画制作を始めたのだろうか。「常に映像でストーリーを考えていたのですが、『これ映像だと違和感があるな』と思う作品もいくつかでてきたので、漫画にしてみたところピッタリとハマったという具合です」と、ひょんなきっかけから漫画制作を始めたと話す愚劣翁吐遮物さん。
今回紹介した『あのへや』は、今の社会状況を表現したかのような息苦しさに加え、何を正せば良いのかハッキリとしない不可解さを感じる作品だが、愚劣翁吐遮物さんは「社会状況は意図していない」とキッパリ。「ここ30年ほど閉塞した空気で育ってきたので、自然と閉鎖的な雰囲気になったのかもしれません。私としては、『お!ナンダコレハ!どうなるんだ!?』と思ってもらいたくて創作しました」と、創作の思いを語ってくれた。
たった5ページで展開されるこの作品は、ラストの1ページで謎が解けるのではなく、より謎が深まる異質な構成となっている。キーワードとなるのは、少ないセリフと、ある有名画家の作品をモチーフにしたような絵。この点について、「私は漫画を絵だと認識しているので、絵を中心に展開できるよう心掛けています」と、やはりこの“絵”に相当なこだわりと思いを持っていることを教えてくれた。
こうした独自の作風を貫く中で、今後の活動について意外な展望を語ってくれた。「漫画としては日常的なものや、温泉めぐりなんかを漫画にしてみたいという気持ちがあります。あとは、2021年12月と2022年9月にグループ展をして、たくさん絵を描いたので、イラストや絵の仕事もしたいです。映画を撮りたい気持ちは常にあって、シナリオを考えておりますが、どうしてもお金も時間もかかるので手が出せていない状態です」。仮に“温泉めぐり”をテーマにすると、一体どのような作品として仕上がるのだろうか。今後も目が離せない!
■愚劣翁吐遮物さんInformation
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