グラビアアイドルの写真集には、本編への掲載が見送られたオフショットが多数存在しますが、それは猫写真でも同じこと。一見、甲乙つけがたい作品から選出する判断基準は何なのでしょうか。猫専門誌「猫びより」(辰巳出版)の人気連載「したたか こびたり にゃっ!」を17年間に渡って連載する写真家・藤範智誠さん、担当編集者の宮田玲子さんに話を聞きました。
連載では毎号1作品が掲載されますが、その傑作写真54枚をセレクトした週めくりカレンダー「猫カレンダー毎週にゃっ!2023」が発売中。猫たちのはじけた「非日常」をテーマに、元気いっぱいの姿が収められました。宮田さんは「使われていないけれど、いい写真はたくさんあります。いつか何かの形で世に出せれば」と話し、オフショットと掲載作品を見比べました。
まずは金網の編み目に顔を押しつけるニャンコ。同じロケーション、同じ猫が金網によじ登って遠くを見渡すカットもありましたが、前者が採用されました。宮田さんは「こんな猫見たことない、がコンセプトです。どうして顔を押しつけるの、と読者の想像をかき立てる方を選びました」と説明しました。
続いては、直立して目いっぱい体を伸ばしながら、地蔵堂の屋根に前足をかけるカット。地蔵堂の隣に寝そべってお腹を見せる愛らしいカットは見送られました。宮田さんは「掲載された作品の方が、どうして必死なの、何のために一生懸命なの、と写真のその先を考えさせるものです。寝転がっている方は確かにかわいいんですけれど」と話しました。
最後は別のロケ地、別の猫が登場する二枚。ともに草むらにたたずむ姿を捉えたものですが、2匹の猫がカメラに視線を向けるカットが選ばれました。宮田さんは「写真を通して読者と猫がコミュニケーションを取れるいいカットだと思いました」と話すと、藤範さんも「まるで秘密の会合を覗いたよう」と頷きました。
藤範さんは2005年から写真家として活動。「スマホで誰でも撮影できる時代ですから、ただ寝ている姿、座っている姿ではなく、動きのある決定的瞬間を取りたい」と話します。動きだけでなく、読者の想像をも膨らませるコンセプトが決まり、連載17年の名物企画に育ちました。
主に地域住人と猫が共存する猫島を舞台に、撮影を行う藤範さん。「猫の方から近寄ってくれることも多いですが、それは地域の方々にお世話され、大切にされているからこそですね。通っているとさまざまな表情や姿を見せてくれる〝スーパーモデル〟が分かってきます。各地に、僕と気が合う〝スーパーモデル〟がいます」。この経験に基づく情報はプロならでは、と言えるでしょう。
カレンダー作品にも言及した藤範さん。「突風」と命名された作品は爪研ぎをしていた猫の上に子猫が。まるで木登りをヘルプしているようですが「枝にいた子猫がずり落ちてきて、この瞬間を撮れました。何だこれは、と不思議な気持ちになりますよね」。「ロケット」と題された作品では1匹がスーパージャンプを披露。「人懐っこい猫が集まってきて、猫じゃらしを出したときの作品です。連写した中で尻尾が他の猫にかぶらず、一番いいカットです」と舞台裏を明かしました。
「ワイパー」と題された作品では、後方の猫にピントを合わせたところ、別の猫がレンズの前を横切り、その尻尾がまるでワイパーのように。藤範さんが「人懐っこい猫が突然寄ってきて…」とうれしいハプニングを振り返れば、宮田さんは「この尻尾は猫がゴキゲンな時の形です」と楽しそうに話しました。
猫たちの日常にひそむ非日常の数々。決定的瞬間を見せてくれるまで猫にレンズを向け続けるのは大変そうですが、藤範さんは「猫たちはあり得ないほどかわいくて、ずっと見ていられます」と話しました。