人気時代劇ドラマ「必殺」シリーズ(朝日放送・松竹制作)が今年で放送開始50周年の節目を迎えた。藤田まことさん演じる中村主水(もんど)のイメージが一般的に定着しているが、それ以前には実験的な作品群も残されている。長寿シリーズにつながる〝安定路線〟を確立したターニングポイントに焦点を当て、今秋、書籍「必殺シリーズ秘史 50年目の告白録」(立東舎)を刊行した著者の高鳥都氏に話を聞いた。(文中一部敬称略)
「表」の顔を持つ殺し屋たちの裏稼業を描いた同シリーズ。第1弾は1972年9月から翌年3月まで放送された「必殺仕掛人」で、藤枝梅安役の緒形拳さんが主演。続く「必殺仕置人」(73年4月-同10月放送)で中村主水、念仏の鉄(山崎努)らが登場。初期作品は「正義の味方」的な勧善懲悪ではなく、「殺し」そのものにこだわるアウトローたちの闇や〝エログロ〟の要素もあったが、その後は大衆性を強めてお茶の間に定着した。
その転換期はどこにあったのか。80年生まれの後追い世代でありながら、「必殺」シリーズに造詣の深い高鳥氏が解説する。
「ターニングポイントは79年5月から始まったシリーズ第15弾の『必殺仕事人』です。それまで毎回、試行錯誤や実験を繰り返して、70年代という革新的な時代を反映した反骨精神や反逆心も含めたアウトローものでしたが、『仕事人』には三田村邦彦さんが加わって、全84話、約1年半も続きます。当初は原点回帰のハードな作風でしたが、三田村さんのアイドル人気も出て、そこから基本的にストーリーをワンパターンへと落とし込んでいった。80年代になると、暗い情念のドラマより明快さが求められ、中条きよしさん、ひかる一平さんらがレギュラー入りし、殺しのシーンも華麗になる。時代を反映してエリマキトカゲやワープロが出てきたりとか、それもある種の実験ではあるんですけど、ストーリー自体はシンプルで、被害者が殺され、出陣して悪人を殺し、最後は、せん(菅井きん)、りつ(白木万理)、主水による〝中村家コント〟というフォーマットができました」
一方、マニア的な視点からいえば、その前作である第14弾の「翔べ! 必殺うらごろし」(78年12月-79年5月放送)が注目される。かつて視聴率争いのライバルだった「木枯し紋次郎」(フジテレビ系)の中村敦夫が霊視能力のある行者役で主演し、男装の和田アキ子、「おばさん」という役名の市原悦子さんらが脇を固めた。
「翔べ! 必殺うらごろし」は70年代後半のオカルトブームを反映し(ちなみに月刊「ムー」創刊は79年)、超常現象がらみの事件が起きるという作風だった。当時は低視聴率にあえいだが、今では逆に〝カルト時代劇〟として気になる存在になっている。同作は12月14日からCS放送「時代劇専門チャンネル」で放送される。
「『うらごろし』は実験路線の最たるものです。『殺しは夜』という定番に対し、真っ昼間に山の中やそこら辺の道端で殺す。しかも、刺したり殴ったりと原始的な方法で。さらに、テレパシーで殺された人の恨みをキャッチして相手を殺しに行くという、それまでのシリーズとは全く違うスタイルです。必殺シリーズは『テロリズム礼賛』という批判を封じるために『お金と引き替えに殺す』ことをアリバイにする部分もあったのですが、『うらごろし』は金をもらわない点でも異質でした。しかし、視聴率的には低迷し、その次の『必殺仕事人』もダメならシリーズ自体が終わるかもしれないという崖っぷちで一発逆転。徐々にパターン化され、三田村さんの挿入歌が流れるプロモーションビデオ的な映像で若い女性にアピールするシーンも途中から出てきたりして、変質していきました」(高鳥氏)
この第15弾「必殺仕事人」を礎として、シリーズは東山紀之主演の第31弾「必殺仕事人2009」まで、その後もスペシャル版(最新作は来年1月放送予定)という形で継続している。だが、その歴史の中にあった実験精神も忘れてはならない。