お国柄の違いをネタにした「エスニックジョーク」というものがある。国民性を端的に表現した小話で笑いを誘うジョークのことだが、一方で問題点も指摘されているという。ジャーナリストの深月ユリア氏がその内容をさまざまな書籍から引用した上で、識者の話も聞いた。
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世界各国の民族・文化によって、価値観・考え方が異なるのはいうまでもないが、その違いを面白おかしく風刺したものが「エスニックジョーク」だ。例えば、ノンフィクション作家の早坂隆氏の著書「世界の日本人ジョーク集」などによると、有名なエスニックジョークで沈没船に関するものがある。
「ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は各国の乗客に、速やかに海に飛び込むよう指示しなければならなかった。アメリカ人に対して『飛び込めばヒーローになれますよ』、ロシア人に対して『海にウォッカのビンが流れていますよ』、イタリア人に対して『海に飛び込めば美女に愛されます』、フランス人に対して『決して海には飛び込まないでください』、イギリス人に対して『ここで海に飛び込めば紳士です』、ドイツ人に対して『海に飛び込むのは規則です』、中国人に対して『おいしい魚が泳いでいますよ』、日本人に対して『みなさん飛び込んでいますよ』、韓国人に対して『日本人はもう飛び込みましたよ』、北朝鮮人に対して『今が脱北のチャンスです』」
このようにエスニックジョークには各国人の価値観・考え方が風刺されている。
中央大学総合政策学部で比較文化を教えていた元講師で文学博士の酒生文弥氏によると、「例えば、イギリス人とアメリカ人はともに基本的に名誉を重んじ勇猛なアングロサクソン気質です。ただ、イギリス人はスノッブで紳士的な気取りが、アメリカ人はワイルドなカウボーイ精神があります。ドイツ人と日本人はロボットのような勤勉さが共通しますが、ドイツ人には質実剛健、日本人には同調しやすい村意識と死生を越えるサムライ精神が同居しています。フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルはいずれもラテン人。陽気で快楽を追及し、規則や押し付けを嫌います」と私見を述べた。
他にも、上智大学比較文化学科出身のジャーナリスト、古歩道・ベンジャミン氏の著書「世界が読めるジョーク集」によると「無人島」に関するエスニックジョークもある。
「無人島に男2人と女1人が流れ着いた。その後、3人がどうなったか?フランス人『女は片方の男と結婚し、もう1人とは不倫するに違いない』、アメリカ人『女は片方の男と結婚し、離婚してから次の男と再婚するに違いない』、ドイツ人『女は、どちらかの男と結婚し、残りの男は立会人を務めるに違いない』、日本人『男2人は、どちらが女と結婚したらいいかを本社に問い合わせるに違いない』」
このジョークでは恋愛体質のフランス人の価値観も風刺されている。フランスの社会学者ジャニーヌ・モシュ・ラヴォの著書「フランスの性生活」によると、「不倫よりもセックスレスの方がタブー」という考察が記されている。アメリカ人は世界的にみても離婚率が高く、ドイツは法・制度を重視、日本人は1人では決められない優柔不断な国民性という意味だろう。ただし、米国立衛生統計センターによるとコロナ禍の経済・社会不安も要因して、離婚・結婚率共に減少しているそうだ。
酒生氏によると「世界一幸せな男と世界一不幸な男は?」というエスニックジョークでは、「世界一幸せな男はイギリスの家に住み、フランス(または中国)の料理を食べ、日本人を妻とする。世界一不幸な男は日本の家に住み、イギリスの料理を食べ、アメリカ人を妻とする」。日本は土地が狭く家が窮屈だといわれ、イギリスは家が優雅、フランス料理と中華料理は世界三大料理(もう一つはトルコ料理)だが、イギリス料理は「まずい」といわれてきた。また、日本人妻は男性を立てる大和撫子(なでしこ)で、アメリカ人の妻は強気である、という考えから生まれたエスニックジョークだろう。
もっとも、日本でもデザインハウスが増えた多様な社会、特定の国にいても多国籍料理が楽しめるグローバル社会、「男女平等」がスタンダードとなる社会において、もはやこのジョークは時代遅れかもしれない。他にもエスニックジョークの問題点として「差別・優勢思想・固定観念も植え付けかねない」という点も指摘されている。「百聞は一見にしかず」なので、エスニックジョークの真偽は別として、あくまでジョークとして楽しむ程度で、実際にその各国人と交流する生身の体験の方がはるかに貴重なことだろう。