安倍晋三元首相(享年67)が7月8日に奈良県内で銃撃され、死去するという衝撃の事件から100日が過ぎた。山上徹也容疑者(42)の供述から、犯行動機の背景にある存在としてクローズアップされた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について、メディアでは連日報じられ、国会でも焦点となっている。銃撃事件から3か月となる10月8日に都内で開催されたジャーナリストの深月ユリア氏が運営する深月事務所主催のシンポジウムに足を運び、この問題を長年追ってきた前参議院議員でジャーナリストの有田芳生氏らの話を聞いた。
同ベントは深月氏が司会を務め、有田氏、東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏、ニュース配信サイト「TOCANA(トカナ)」の元編集長でライターの角由紀子氏、松下政経塾一期生で浄土真宗僧侶の酒生文弥氏が登壇した。旧統一教会側からも幹部が参加し、事前に登壇者と名刺を交換。聴衆と共に議論に耳を傾け、質問もするといったオープンな雰囲気で進行した。その内容の一部を抜粋する。
旧統一教会は会見で「改革」を打ち出しているが、有田氏は「改革をなぜしなければいけないのかという説明や根拠が語られていない」と指摘。望月氏は「謝っている先もカルト2世の被害者や元信者の家族などではなくて、国会議員の皆々様へという言い方をされていて、そういったことからしても不十分な記者会見だと思う」、角氏は「社会との乖離のようなものを感じた。旧統一教会が2世信者の会見の途中で中止を求めたこともそうで、社会常識のなさを痛感した」と印象を語った。
一方、酒生氏は「テレビのワイドショーなどの報道は統一教会に偏りすぎている。他の新興宗教ではもっとひどいこともある。そういった(別の)宗教のことを言わずに、統一教会だけをたたくのはおかしい。だから(旧統一教会側が)会見をする必要はない。改革をする意味もない」と発言。それに対し、望月氏は「カルト2世の問題がこれだけ出てきて、他の宗教でも苦しんでいる子どもたちがいるということが現実問題としてある。それなのに『会見をすべきじゃない』などというのは言語道断だと思います。苦しんでいる家族の人たちが現実にいるという問題から目を背けないで欲しい」と訴えた。
深月氏は「フランスにあるような『反セクト法』を作ったらいいのでは」と提案した。
有田氏は「オウム事件の影響も受けて、フランスでは2001年に反セクト法ができたのですが、あくまでも理念法であって、実効性が全くない。178の団体がカルト認定されたが、21年たって、解散した組織はゼロです」と説明した。酒生氏は「反セクト法には意味がない。そもそも、政治と宗教、経済もそうだけど、みんな人間の営みであって、別個のことではない。それをあえて法律でどうこうというのは茶番。フランスからいえば日本の宗教はすべてカルトですよ。宗教を縛るというのは意味がない」と持論を展開。望月氏は「信じているが故に1億円、2億円と献金して、苦しむ2世の方たちが続出しているわけですから、最低限でも、なんらかの上限規制をかけられるような制度改正をしなければいけないと思います」と提言した。
有田氏は宗教の根本的な部分を説いた。
「信仰は人の心の問題だから難しい。オウム真理教は宗教法人格を剥奪されたが、今もいくつかの分派があり、教えを信じている人がいるわけで、教団がなくなっても信者は残るわけですよ。臨時国会や来年の通常国会でも旧統一教会の宗教法人格をどうするのか、与野党の議論になっていくと思うのだけど、仮に宗教法人格がなくなったとしても、任意団体としての旧統一教会は残るわけです。そこには教義があるわけだから。その教義に基づいて信者さんたちは動いていくので、その時に問題が起きないような仕組みをどうするか。具体的な法律の中で縛っていくのか。高額献金を止めるような何らかの法改正はやらざるを得ないと思っていますが、信仰というところに結びついたものを縛るというのは、難しい世界だと思います」
また、自民党議員との関係が報じられるなど、旧統一教会が日本の政治に及ぼす影響も懸念されている。有田氏は「憲法改正なども含めて日本の政治に大きな影響を与えているという誤解を与えてしまうという意味で、メディアは過小評価してはいけないけれど、過大評価、あるいは誇大評価は注意しなくてはならない」と指摘した。
根の深い問題があると感じるが、少なくとも個々にできることは何か?角氏は「(組織票を動員する)新興宗教による政治介入を減らすためには、投票率を上げることが一番だと思っています」との見解を示した。まずは、その「一歩」が庶民である有権者のための政治を取り戻す「道」となる。10月1日に亡くなった〝燃える闘魂〟アントニオ猪木さんの詩「道」になぞらえながら、そう思った。