日本一の新鋭漫才師を決めるM-1グランプリで、動物着ぐるみのカルテットが確かな存在感を残した。無限亭あにまる正方形は9月30日に千葉県内で行われた1回戦で敗退したものの、ナイスアマチュア賞に輝いた。特撮、アニメ作品のキャラクターショー、漫才を行った〝4匹〟を含むオリジナルの動物着ぐるみ姿でステージ、イベントへの出演等を行う株式会社無限の社員によって構成。初出場から3年連続1回戦敗退となったものの、初の栄誉を手にし、着実な進歩を続ける4人の演者に話を聞いた。
身長190センチ超のトラ、サル、カエル、ウシ。「ど~も~、正統派漫才師が来ましたよ~」の第一声を皮切りに、2分間のネタをやり切った。正木利慶さん(47)、小林豊明さん(57)、中野剛志さん(49)、小山雄生さん(39)の4人は、1回戦敗退後、SNSに寄せられた反響の大きさに驚いたという。
同社を2008年に起業した社長の小林さんは「やろうとしたことはできたと思う。受賞は本当にうれしい」と喜び、正木さんは「外部からの声がこれほど寄せられるのは初めて。いろいろな意見はありがたい」と感謝を口にした。小山さんは「テキパキと仕事するM-1運営の女性が、僕たちを見てほっこりしてくれた。ほかの出場者からは応援の声をかけてもらいました」と周囲の様子を明かし、中野さんは「4人がそれぞれでっかい衣装袋を担いで会場に入るのは、ものすごく異様だったと思います」と笑った。
仮面とマントを着用したトラはトラ社長(熱血タイプ)、サルはきのしたおさむ、カエルはかわかみのぶお、ウシはうしまる、各着ぐるみが名前を持つ。2020年は無限亭ゲロゲロモンキーとしてカエルとサル、21年は無限亭モーモータイガーとしてウシとトラのコンビで出場。今回は過去2回の参加者が集結した。漫才中の声について、正木さんは「最初は地声でしたが、それだとセンターマイクに向かって叫んでばかりになってしまった。昨年からヘッドホンマイクを着け、小型スピーカーを着ぐるみの中に入れて、トーンを抑えた会話もできるようになりました」と舞台裏を明かした。中野さんは「スピーカーの位置や、音量の調整が難しい」と語り、小山さんは「着ぐるみ姿になると操作はもうできない。だから舞台袖では、一言もしゃべれませんでした」と続けた。
M-1出場へのきっかけは、コロナ禍だった。2020年春、イベントが続々と中止となった。「仕事が全くなくなってしまったけれど、腐ってばかりではいけない。できることをやってみよう」と社員一丸となり、休眠状態だったYouTubeのチャンネルを再起動。「親子で楽しむ子ども向け動物着ぐるみ番組」として、さまざまな方向性の動画配信を開始した。その一つが漫才だった。M-1出場を提言した正木さんは大阪出身、20歳から23歳まで、漫才師として活動してきた経験を生かした。正木さんは「ヒマだったからできた」と話し、中野さんは「目標も目的もなく始めてみたら、いつの間にか目標と目的ができていました」としみじみ語った。
演者の目線と着ぐるみの目線は異なるため、漫才以外にも一定の演技力が求められる。その一方、正木さんが「上手すぎると面白みがなくなる」と話すように、微妙なさじ加減が要求される。そんな1回戦のネタは、M-1公式YouTubeチャンネルで配信中だ。
とはいえ、3年連続1回戦敗退の事実を誇ることはできない。社長の小林さんは「1回戦は絶対に突破したい」と気勢を上げ、オリジナル動物着ぐるみは計15体いることから「突破するまで出場者を毎年1体ずつ増やしていってもいい」とぶち上げた。これまでは社内で漫才を実施し、M-1の準備を進めてきたが、今回の受賞を機に、アマチュアお笑いライブの誘いを受けた。10月30日の「社会人漫才王2022予選会」(会場・新宿V-1)では、M-1以外では初めて公のステージに登場する。今後は着ぐるみイベントでの漫才披露など、活躍の幅が広がるのかもしれない。