ザ・ドリフターズの仲本工事さん(享年81)が19日、急性硬膜下血腫のため死去した。国民的なバラエティー番組「8時だヨ!全員集合」「ドリフ大爆笑」などで名脇役に徹し、お茶の間に笑いを届けた仲本さん。自身のホームグラウンドだった居酒屋で垣間見えた素顔を振り返った。
東京・目黒区内の閑静な住宅街にある「仲本家 JUNKAの台所」という居酒屋に仲本さんを訪ねたのは2018年3月のことだった。一世風靡(ふうび)した著名人の第二の人生や、本業とは別の活動を紹介するという趣旨の企画取材だった。
計18席の店では、2012年に再々婚した歌手の純歌さんが厨房で料理の腕をふるい、仲本さんは仕事の合間に顔を出して、来店するファンと気さくに交流。「東京にいる時は毎日、夜6時から12時までの間に必ず店に顔を出してます。注文を取ったり、お運びしたり、お客さんと話したり、一緒に写真を撮ったり。若い人も多くて、ドリフのこともよく知ってるんですよ。楽しいですね」と目を細めた。
仲本さんは胸襟を開いて多くを語った。「加トちゃんは天才型、志村は努力家」「メンバー間の年齢が離れていたから、もめ事がなく、バランスが取れた」といった「ドリフ論」。脇役だった自分がビートルズ日本武道館公演の前座でリードボーカルを務め、熱狂する会場で主役となった興奮の瞬間…。
「何でも聞いてください。何でも話します」。そう前置きした仲本さんだったが、「何でも」といっても、その人が触れて欲しくないことは巧みに回避。「人のことを悪く言いたくない。いいところだけ話します」。そんなポリシーを口にし、取材後には「僕のことはいいから、女房のことも取材してください」と頭を下げた。
「27歳下の妻」に対し、私生活では夫であると同時に、プロデューサー的存在であり、精神的な部分では〝父親〟の部分もあるのでは…と感じた。「女房は全国で味見した素材をアレンジした料理を台所から出している。それを毎日食べている僕も健康でいられます」と感謝を口した時には、純歌さんを〝母〟のように頼って慕う一面ものぞかせた。
一方、現場で驚いたのは、主演映画「祭りの準備」などで1970年代の青春スター俳優となった江藤潤さんがスタッフとして同店で働いていたこと。作務衣(さむえ)とゲタ履きで、うちわを手にカウンター内で巧みに焼き鳥の串を操っていた江藤さん。現在も、いぶし銀の名優として活躍中だが、役者の仕事がない時に、縁のあった仲本さんが職場を提供する形でサポートしていた。
その後は個人的に何度か店に顔を出す中で、77歳の喜寿を祝うパーティーを誕生月の7月に店の近くで開催すると聞いて足を運んだ。
会場では、その江藤さんがギターで弾き語りし、〝ドリフ第6の男〟と称されたコメディアン・すわ親治さんも出演。「縁」を大事にする仲本さんゆえのキャスティングだった。そして、純歌さんがその日発売の新曲「そばにいるね」などを披露。仲本さんは自身の喜寿祝いを妻の新曲発表会に変えて後方支援した。自分より周囲を立てる…というドリフでの立ち位置にも似た脇役人生を感じた。
それから4年、仲本さんは不慮の事故で突然、この世を去った。喜寿パーティーで残した言葉の一部をここに再録しておく。「今もドリフの仲本として生きていられる。ありがたいことですよ。無理をせずに、自然であることが一番だと思います。自分の好きなことができる年齢にもなりましたから、お客さんに楽しんでもらいながら自分も勉強して、これからも思い出に残ることをしていきたい」。できることなら、もう少し「思い出」を作って欲しかった。