【漫画】同人活動一筋で還暦に 向日葵さん、プロへの情熱も「アピールしたい気持ちはある」

山本 鋼平 山本 鋼平

 学生時代から同人活動を続けてきた向日葵(むこうび・あおい)さんは、60歳の還暦を迎え、「アピールしたい気持ちはある。熱意がないわけではありません」とプロデビューへの意欲を持つ。13日に都内で開催された同人誌即売会「コミックマーケット 100」にサークル参加した向日さんに、話を聞いた。

 サークルの机には「うみのと」合本版、「碧い地球はだれのもの」全31話のコピー本が並んだ。「うみのと」は自主制作の漫画誌展示即売会コミティアで2007年11月から12年9月まで頒布され、全19話をまとめた合本版が今年2月に製作された。「碧い地球はだれのもの」はコミティアで13年5月から昨年9月まで頒布された。コミティアは基本的に年4回開催され、09年2月大会を除き、発表期間中は一度も休まなかった。向日さんは「一回原稿を落とした時に、来場者が残念がっているのを見て、もう二度と落とさないと決心しました。作画に当日の朝までかかり、コンビニでコピーしたものを電車の中、ホチキスで綴じる音はとても響くんですよね。お客さんには白い目で見られたと思います」と、苦笑交じりに振り返った。

 向日さんは1962年生まれ、宮崎県出身。鹿児島大に入学した18歳の時、当時の2年生が立ち上げた漫画同好会に参加。2DKの下宿は会員のたまり場となり、漫画制作に熱中した。理系学部を卒業し、アニメ制作会社トランス・アーツ(2012年倒産)に就職したが、1日15時間勤務、休みは月間2日の環境に悩み、半年で退職したという。以降は家庭教師、塾講師、機関職員など教育関係の仕事に就きながら、絵画、脚本執筆を軸にする時期もあったが、同人活動を続けてきた。

 「自分の読みたい漫画を描こうと思うのですが、その技術がないことが苦しいんですよね。結局、自分の描けるものを描くしかない。やがて吹き出し、擬音、効果線など漫符的なもの、トーンを使わない自分のスタイルが見えてきました。やっと納得のできるものが描けるようになってきました」

 「うみのと」は初めて挑戦した長編。アニメ「海のトリトン」をモチーフに、多摩川を遡上し、話題となったイルカを見つけた主人公が、そのイルカから自身の出自が海の民の末裔であることを知らされ、導かれるように海の向こうへ旅に出る冒険譚。400ページ超の合本版は自主制作本を扱うタコシェの中野店舗、オンラインで販売中。英語版の制作が持ちかけられるなど、一定の評価を得ている。「碧い地球はだれのもの」は、宇宙から侵略通知を受けた地球、日本で暮らす主人公が、理科教師から自身の祖父が手がけた宇宙船の存在を知らされ、物語が展開する。「よく宮崎駿さんからの影響を指摘されるのですが、私は萩尾望都さんの『11人いる!』を読んで、漫画を描こうと思いました」と語った。線描のみのアナログな絵柄だが、全てタブレットを用いたデジタル作画だという。

 商業誌への投稿経験はあるものの、入賞歴、担当編集がついたことはない。それでも「アピールしたい気持ちはある。熱意がないわけではありません」と、プロデビューへの意欲を抱く。「創作に時間を全て使えるプロはうらやましい。自分がまだ気づいていない好きなもの、描きたいものを見つけて、新しいことに挑戦したい」。さらなる成長を誓った。

「うみのと」第1話、第2話はコチラから読めます

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