地下鉄駅の避難民、ロシア戦車を解体する住民、兵士の結婚式、写真家が撮ったウクライナ戦地の「生」

北村 泰介 北村 泰介
破壊されて放置されたロシア軍の戦車を物色中、中から顔をのぞかせるウクライナ住民=ウクライナ東部マラヤロハニ(撮影・釣崎清隆)
破壊されて放置されたロシア軍の戦車を物色中、中から顔をのぞかせるウクライナ住民=ウクライナ東部マラヤロハニ(撮影・釣崎清隆)

 ロシアのウクライナ侵攻が24日で半年の節目を迎える。だが、状況は混迷し、長期化の様相を呈している。今年5月、現地を取材したカメラマンの釣崎清隆氏が戦火の中、常に「死」と隣接した極限状態の中での「生」に焦点を当てて撮影した写真の一部を紹介し、よろず~ニュースの取材に対し、現場の様子について語った。

 釣崎氏は1966年、富山県生まれ。94年以降、タイやコロンビア、ロシア、メキシコ、パレスチナなど世界中の無法地帯や紛争地域を渡り歩いて人間の死体を撮影してきた。「死体写真家」という世界でも類を見ない肩書で知られるが、4年前に出版した「死」の集大成的な写真集『THE DEAD(ザ・デッド)』から一転、死と対になる「生」にフォーカスした写真集『THE LIVING(ザ・リビング)』(いずれも東京キララ社)の刊行を目指す中、今年5月にウクライナに渡った。

 5月1日に日本を発ち、ポーランドから長距離バスでウクライナの首都キーウへ。その後、列車で東部にあるウクライナ第2の都市ハルキウに入った。同地を中心に、その周辺の土地も含めて連日撮影し、同21日に帰国した。

 ハルキウでは住民がシェルター代わりに使う地下鉄駅の構内を撮影。駅の柱に沿ってびっしりと人が寝泊まりしている。充電中のスマホを手に笑顔の少女、ミニチュアの城と思われる玩具で遊ぶ少年、ペットの犬に寄り添う少女、両手を頭の後ろに組んで横たわったまま虚空を見つめる若い女性、毛布をかけて座る老女、自分に向けられたカメラをイスから見返す高齢男性…。換気の悪さやトイレ事情など不自由な環境にあっても、日々の営みを淡々と重ねる庶民の生きる姿が映し出されていた。

 防空壕(ごう)と化した地下鉄駅での生活について、釣崎氏は「電力インフラは充実しており、避難民は思い思いに最低限のプライバシーを守りながら暮らしています。みな冷静さを保っていますが、長引く戦況、連日訪れるメディアで、ストレスが募っているのを感じます。全体としてはまだまだ平静です」と振り返った。

 ウクライナ東部マラヤロハニでは、破壊されて放置されたロシア軍の戦車や軍用車両に対する住民の行動が写し出された。自転車で通りかかった2人連れの男性がサドルにまたがって見物する光景や、車両の中に侵入して顔をのぞかせる男性、戦車を解体する人々の姿もあった。記者は阪神・淡路大震災の被災地で自転車を移動手段として重宝した記憶があるが、戦地でも自転車を利用する人は多かったのだろうか。

 釣崎氏は「(戦車を見ている男性2人の写真は)一般的なウクライナ人の親子が自転車に乗って感慨にふけっている様子です。交通手段に制限はないと思います。足場は悪いので、あえて自転車という可能性もありますね。ちなみに我々の車は現地でちぎれた電線を前輪に巻き込んでしまって、往生しました」という。また、ロシア軍車両の解体について「住民は戦車の換金を目論んで物色しています。女性兵士は(その場所に)我々をアテンドする係でした」と明かした。

 ロシア兵の死体の写真も撮影された。小学校の敷地で死体となって横たわるロシア兵の頭上で羽毛状態のタンポポがしっかりと根を下ろしている写真も。そこに死と生の対比を感じた。

 一方、戦火の中で新たな人生に一歩を踏み出す男女がいる。ウクライナ兵男性とブーケを手にしたドレス姿の女性がハルキウで結婚式を挙げ、破壊された街中で肩を寄せ合い、手をつないで道を歩く写真がある。釣崎氏は撮影の経緯について「地元で知り合った報道カメラマンが、友人の結婚式だということで連れて行ってくれました。新郎は国境地帯の戦闘で負傷して入院していたのですが、退院のその日に結婚することにしました」と説明した。

 取材から帰国して3か月。今後の状況について、釣崎氏は「ウクライナ人はロシア人のいい部分も悪い部分も知り尽くしている。『ほぼ同じ人たち』と言ったら、彼らは怒るかもしれませんが、手の内を完全に分かっているから、戦い方も分かっているはずで、無謀な戦い方はしないはずだし、それでも祖国のために連帯して戦っているわけですから、(ウクライナ側が)自分から敗北宣言をすることは絶対にあり得ないと思う。一過性のものではなく、覚悟が違う。彼らは戦時下での立ち居振る舞いが自然なんですね。クリミア侵攻以来、培ってきた国民教育のたまものだと思います」と指摘した。

 戦時下という非日常を「日常」として生きるウクライナ庶民のバイタリティーが写真から伝わってくる。写真集『THE LIVING』はクラウドファンディング特典のほか、来年1月開催予定の写真展や一部店舗で販売される。

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【死体写真家・釣崎清隆の死体以外「生」の写真集『THE LIVING』出版プロジェクト】

https://motion-gallery.net/projects/tsurisaki2022?fbclid=IwAR1Z6mcnI_Yus5npVAsio54bQg09faCODuTcuj-KAQQJ_AfdRRPsgSqERhg

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