安倍元首相銃撃事件の背景、カルトの定義、国葬、今後の政局、ほとぼり冷めれば幕引き?識者はどう見たか

北村 泰介 北村 泰介
シンポジウムに参加した(左から)酒生文弥氏、角由紀子氏、望月衣塑子氏、深月ユリア氏=都内
シンポジウムに参加した(左から)酒生文弥氏、角由紀子氏、望月衣塑子氏、深月ユリア氏=都内

 安倍晋三元首相(享年67)が7月8日に奈良県内で参議院議員選挙の応援演説中に銃撃され、死亡するという衝撃の事件から8日で1か月を迎える。この間、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)の供述から、犯行動機の背景としてクローズアップされた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員をはじめとする政界との関係などについて、テレビのワイドショーや報道番組、ネットや紙媒体で連日報じられているが、一方で非公開の場で論じ合う機会も設けられている。その中で、7月下旬に都内で行なわれたイベントを取材した。

 記者が足を運んだのは、ジャーナリストの深月ユリア氏が運営する深月事務所主催のシンポジウム。同氏が司会を務め、「新聞記者」「報道現場」などの著書で知られる東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏、オカルト的ニュース配信サイト「TOCANA(トカナ)」の元編集長でライターの角由紀子氏、松下政経塾一期生で国連NGOに平和大使としても参加した光寿院住職の酒生文弥氏が登壇した。それぞれの専門分野から、銃撃事件の背景、容疑者の供述から浮上したカルト宗教、政界の動きなどについて語り合った。

 酒生氏は自身が会頭を務める在日本ルーマニア商工会議所の設立に関連して安倍元首相と接点があった。「私は安倍さんと5回会っています。在日本ルーマニア商工会議所の設立を認めてくれたのが安倍さんであり、個人としては素晴らしい方で、その人が凶弾に倒れたことは非常に残念です」とした上で、「今回、『銃撃事件』などと報じられているが、これは公人を殺害したという定義において、はっきり『暗殺』と言った方がいいと私は思います」との見解を語った。

 その上で、酒生氏は「山上容疑者の供述について、母親の入信によって家庭が崩壊し、(関係があったとされる)公人に対する恨みによる復讐をはらしたという内容が報じられているが、不自然なことも多く、今後も議論を要する。『ジョーカー』という映画があって、『バットマン』に出て来る悪役がなぜあのようになったのかという背景を描く作品でしたが、人間は疎外され、孤独になると、獣になるということ。容疑者の心にどれだけ深い闇があったのか、それはまだ分からない」と問題提起した。

 さらに、宗教家である酒生氏は「カルトと宗教は峻別すべき」と訴えた。同氏はカルトの定義として「1・精神の不安定化(洗脳、マインとコントロール)、2・法外な金銭的要求(多額な寄付金)、3・住み慣れた生活環境からの断絶(監禁、出家など)、4・肉体的保全の損傷(暴力、精神的な暴力も含む)、5・子どもの囲い込み(洗脳教育)、6・反社会的な言説、7・公秩序のかく乱、8・裁判沙汰の多さ、9・従来の経済回路からの逸脱、例えば宗教団体のグループ企業化、10・公権力への浸透の試み」という10項目を挙げ、「カルトとは洗脳されて個人を崇拝し、自分の人生をなくすこと」と指摘した。

 角氏は「今回の事件ではいろんな物事が絡み合って起きてしまった。これはオカルトの話になるんですけど、明治維新から(第二次世界大戦での日本の)敗戦まで77年、その敗戦から今年で77年なんです」と指摘。酒生氏は「7」という数字に込められた意味を踏まえて「それって偶然ではないと思います」と興味を示した。

 望月氏は事件の背景や、旧統一教会と自民党との関係について、戦後の原点となる時期から現在に至るまでの流れを解説し、一連の報道の経緯やメディアの在り方、取材現場で体感した政治家の素顔などを報告。今後の政局については「求心力のある安倍さんがこういう形で亡くなったので、四十九日を過ぎたら、永田町的には派閥間の動きが活発化してくるのではないかと思います」と推測した。

 賛否両論となっている安倍氏の国葬について、深月氏は「賛成でも反対でもいいですけど、人任せにはしないで自分で考えましょうということ。主権者は我々ですから」と主張。さらに、深月氏が自民党と宗教団体の関係について「絡んだ議員を外す動きになるのか、ほとぼりが冷めるまで待って幕引きか?」と酒生氏に問うと、同氏は「結論から言うと、後者でしょう」と即答した。

 これまで、大きく報じられてきた社会問題に共通して感じることは「のど元過ぎれば熱さ忘れる」。ニュースとして消費されて終了なのか、政治や社会の在り方を考える次代への課題として語り継がれるのか。その岐路にあることを、会場の熱気の中で感じた。

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