伝説のアイドルが「3度目の正直」で初ホール公演開催、石原慎太郎氏も小説化した半世紀前の夜を再現

北村 泰介 北村 泰介
半世紀前、わずか1年の活動で時代を駆け抜けたフラワー・メグ。復活して初のホール公演を行なう
半世紀前、わずか1年の活動で時代を駆け抜けたフラワー・メグ。復活して初のホール公演を行なう

 1970年代初頭、モデル、歌手、女優として脚光を浴び、わずか1年余りで引退した「伝説のセクシーアイドル」がいた。今世紀になって復帰したフラワー・メグがその人で、12日に初のホールコンサートを東京・代々木上原の「けやきホール」(古賀政男音楽記念館内)で開催する。昨夏から2度の延期を経て「3度目の正直」となる公演に向け、よろず~ニュースの取材に対して、これまでの足跡や近況、今の心境を語った。

 71年4月、NET(現・テレビ朝日)の深夜番組「23時ショー」のカバーガールに19歳で抜てきされて話題となり、同年6月に「ベッドにばかりいるの」で歌手デビュー。女優として、荒木一郎らと共演した「脱出」、梅宮辰夫さん主演の「不良番長 手八丁口八丁」、新藤兼人監督の「鉄輪(かなわ)」などの映画にも出演したが、72年に引退。結婚して3人の子どもを育てた。2003年に当時の音源がCD化されて再評価が高まり、07年に活動を再開。以降、演劇や音楽ライブなどに出演してきた。

 「フラワー・メグ伝説」と題した自身初のホールコンサートは昨年8月26日に同会場で予定されていたが、その前月に左目の角膜感染症によって入院を余儀なくされ、今年2月8日に延期。その日程も、年明けから新規感染者が急増したしたコロナ禍によって7月12日に再延期されていた。

 それでも初公演に向けた心は折れなかった。今春以降、メグは同公演の企画・構成を務めたプロデューサーの新田博邦氏と共にファンの前に元気な姿を見せてきた。

 4月に東京・渋谷のレコード店で行なわれたトークライブでは「グラビアの載った雑誌も処分して、家にはフラワー・メグの『フ』の字も残さなかった。親戚に『メグ』と呼ばれ、息子に『なんで?』と聞かれた時には『魔女っこメグちゃんに似てるから』と答えていました」という子育て時代の姿を明かした。その息子たちも今回の公演をサポートする。

 6月には東京・高円寺で開催された新田氏企画・構成のライブイベントで「朝日楼(朝日のあたる家)」を熱唱。ボブ・ディランやアニマルズらがカバーした米国の伝承曲で、ちあきなおみが日本語詞で歌ったバージョンだったが、この1曲のみで余力を7月公演に残した。

 歌手活動の一方、メグは自身がテレビ局にスカウトされる場となった東京・赤坂のゴーゴークラブ「スペース・カプセル」を自身の原点として検証している。昨夏、1か月半の入院中、当時の思い出をスマートフォンにつづった。当サイトにも「建築家の黒川紀章さんの設計で階段を降りて地下のドアを開けると、壁も天井も床もすべてステンレスで宇宙船の中にいるイメージでした。女の子は全員シースルーのミニのワンピースで接客し、毎夜、土方巽さんの暗黒舞踏や寺山修司さんの天井桟敷、(唐十郎の)状況劇場などによる前衛ショーが行なわれ、政財界の著名人や文化人も出入りしていました」と説明している。

 同店のブレーンだった作家の石原慎太郎氏は小説「光より速きわれら」(76年刊行)で店内の様子を描写していた。「例の少女が外から戻って来た。レインコートを着て襟を立てた下が、裸に近い衣装だけなのがわかる」…といった描写はメグをモデルにしていると感じさせた。その石原氏も今年2月に死去。時代の証言者がいなくなっていく中、メグは歴史の波間に浮かんで消えたアンダーグラウンド・カルチャーを後世に書き残そうとしている。

 今回の公演では、津川雅彦さんと朝丘雪路さん夫妻の娘で歌手の真由子、ベルリンを拠点に国際的に活躍するバーレスクダンサーのエロチカ・バンブー、独自の世界観を持つ音楽デュオ「黒色すみれ」、欧州でも活動するダンサー・史椛穂(しずほ)、舞台女優・佐藤梟(ふくろう)らと共演。さらに、シークレットゲストも登場予定という。

 新たな試みもある。メグは「中山ラビさんを偲(しの)んで彼女の歌のなかで一番好きな『裸の街』を、覚えたてのギターを弾きながら歌います。最後の彼女の笑顔が忘れられないの…」と、昨年7月に亡くなった盟友のシンガー・ソングライターにささげる曲を予告。さらに「もう1曲、初めて歌う歌は10分以上もある、一人芝居みたいな歌。昭和の女の歌です。知っている人もいると思うけど、曲名は当日まで内緒」と付け加えた。

 「3度目の正直。4度目はないと思ってここにかけています」。石原氏も描いた、かつて「昭和元禄」と称された時代を彩った夢のような夜を令和の今によみがえらせたい。そんな半世紀越しの思いを胸に集大成の舞台を迎える。

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