常識破壊の「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」 アドレナリンのような「面白いことをやろうとしている感」批評家の見解

山本 鋼平 山本 鋼平

 切通氏は「みんな人間の時に得体が知れないんですよね。雉野も好青年に見えるけど、仕事で出世するとタロウの仕事(配達アルバイト)を軽蔑しだすとか、ああいうところは、ちょっと怖い。自分にもそういうところがありそうな、人間の不確かさみたいなものがキャラクターの中にある。タロウも仲間を攻撃するパワハラ気質に一見感じられるけれど、なんだコイツは、と思わせて、ウソをつけない体質や正体(脳人が住んでいた世界を壊滅させたため滅亡に追い込まれたドン王家の末裔)が明らかになった直後に、能人に弱点を正直に教えて殺されてしまう。意表を突く上に、意表を突く。予想を超えた何かが続くんでしょう」と、今後に期待を寄せた。

 フォーマットの不安定さ、登場する人間の不確かさが特色というドンブラザーズ。メイン脚本の井上敏樹氏はシリーズでは「鳥人戦隊ジェットマン」(1991年)以来の復帰だが、平成仮面ライダーシリーズの初期作を支えたことでも知られる。

 第15話ではピンクの雉野が、事故で負傷した妻を思うあまり、車を憎む怪人に変身した。切通氏は「仮面ライダー555」(2003年)でライダーである登場人物が怪人オルフェノクに変身する場面、「仮面ライダーアギト」(2001年)でG3への変身装具をアギトが装着する場面を挙げ「役割が固まってきたと思うと、役割が交換されて不安定になる展開は懐かしいですね」と語った。

 第10話ではイエローの鬼頭がドンブラザーズから脱退し、人気漫画家の地位に返り咲く。かつて天才ギタリストだったが、才能をねたんだ教授の陰謀で大ケガを負い楽器を捨てた「555」の海道直也を挙げ「海道の『夢というのは呪い。挫折した人間は呪われたまま』というセリフから、呪いからの解放というドラマが生まれました。新しくイエローになった女の子がカメラマンの夢を捨てたのを見て、彼女が元に戻してあげようとしたことに海道を思い出しました。彼女は第1話で受難があって、かわいそうだとは思うけど共感するまではできなかったのが、あの話で共感できるキャラになった。うまいなと思います」と続けた。

 切通氏は近年の仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズに「メンバーがそろって変身能力が披露されると、人物像を深く描くことをやらなくなってしまう」という不満を抱く。「10年前の『仮面ライダーフォーゼ』では学園モノでスクールカースト的なものが描かれましたが、メンバーがそろった後は横並びで皆いいヤツになってしまった。戦隊シリーズでも昨年の『ゼンカイジャー』は主人公ひとりが人間で、他がロボットでした。でも全員がそろったら、ロボットの持つ人間味に興味を掻き立てたのに、個々のロボットメンバーのドラマが描かれなくなり、ヒューマノイド型の新しいライバルキャラとの葛藤がメインになっていきました。視聴者を飽きさせないためかもしれませんが、それもまた見慣れたメソッドで、せっかくの面白い設定があまり発展しなかったように思います」と言及。ドンブラザーズについては「今回はそれを崩そうとしているのか、ひとりひとりの素顔で、分からない部分がまだまだ多い。途中で〝この人のことは分かりました。次はライバルを出します〟という、例年の僕からしたら残念な展開にならず、群像劇として、最後まで引きつけてくれるんじゃないか、と期待しています」と結んだ。

 15話では13話で倒されたタロウが復活。新キャラクターの桃谷ジロウはドンドラゴクウに変身した。一方で鬼頭の漫画盗作問題の経緯、犬塚の罪の内容、雉野の妻と犬塚が探す恋人が同一人物であるような演出、「ゼンカイジャー」主人公でゼンカイザーブラックに変身した五色田介人、ジロウ、新たな勢力の獣人(ジュート)に関することなど、明かされていない謎は多い。主題歌の曲名「俺こそオンリーワン」のような、各キャラクターが抱くそれぞれのドラマは、どのように発展していくのだろうか。

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