コロナ禍で、あらゆる生活様式が変わった。例えば「飛沫(ひまつ)対策」。唾液が飛ぶことを避けるため、飲食店などではアクリル製のパーティションやビニールシートが必須になったが、学校生活において懸念された案件の1つが音楽授業で使うリコーダーだった。今年2月、文部科学省はリコーダーの演奏を原則自粛するように全国の教育委員会などに通知したが、それでも音楽教育におけるリコーダーの必要性を訴える現場の声があり、その対策として飛沫を防ぐ「カバー」での対応策も模索されている。開発メーカーに話を聞いた。
文部科学省は2月4日、小中学校や高校などにおいて、「近距離での合唱やリコーダーなどの演奏、部活動の対外練習試合」といった感染リスクの高い活動を原則自粛するよう求めることを決め、全国の教育委員会などに通知した。同省は「現下の全国的なオミクロン株の感染拡大の時期においては、『感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動』のうち特にリスクが高いものについては基本的に控える」とし、音楽においては「室内で児童生徒が近距離で行う合唱及びリコーダーや鍵盤ハーモニカ等の管楽器演奏」も対象となった。
リコーダーの使用を自粛するか、対策を講じて使うか。その後者に対する要望も少なくない。そこで、学校用水着開発の大手「フットマーク」(本社・東京)が「リコーダー用カバー」を開発した。価格はソプラノ用が880円 アルト用990円(いずれも税込)。同社の担当者は「飛沫が外に出にくい『超はっ水加工』の生地でできたカバーを装着することで、飛沫の拡散をできるだけ抑え、音が鳴る部位の『窓/ラビューム部』と唾液が流れる『足部管』を覆い、それぞれをなくさないよう、ひもでつなげた布製(水着素材)カバーです」と機能を説明した。
さらに、開発の背景も聞いた。同社の担当者は「昨年4月に発売した超はっ水生地を利用したホイッスルカバーの開発をきっかけに、学校生活での感染対策を必要とする場面についてのヒアリングをしてきました。その中である先生の声から、コロナ禍での音楽授業でリコーダーの使用ができない状況であることを知りました。また、リコーダーを吹くことで飛沫が拡散される恐れもあるため、吹かずに指を押さえるだけの練習をするなど苦慮されている実態もあり、リコーダー用カバーの開発に着手することになりました。開発を始めたのは2021年の夏ごろで、発売は同年の11月4日です」と補足した。
「まん延防止重点措置」が31都道府県に出された中、学校では各教科で試行錯誤がなされてきた。同社担当者は「特に音楽授業でのリコーダー演奏については『指だけで授業を行っている』『自宅で個人練習してもらう』『飛沫が怖いのでリコーダーの練習は外で実施している。寒いので、室内で吹かせたい』 『一度も(リコーダーを)使わないまま終わらせるわけにはいかない』など、悩みを抱えている学校から、飛沫対策としてリコーダー用カバーのお問い合せが急増しています」と明かす。
教育現場の声はどうか。大阪府大東市立四条中学校の音楽科・原優奈教諭は「新型コロナウイルス感染拡大の状況になり、校内研究授業でリコーダーを使った授業の使用を断念し、授業計画を変更することを検討していました。何か方法がないかとウェブ検索しているとフットマーク社のリコーダーカバーを見つけました。100%の感染防止になるとは言い切れないでしょうが、感染対策の必要性に応えてくれる商品だと感じました」と経緯を説明した。
その上で、原教諭は「着用しても音量の変化がなく、着脱も問題なく行えています。感情を音に乗せる唯一の教科が音楽であり、感染対策としてそれらが制限されることは子どもたちの中にある表現力を抑制してしまっているといっても過言ではありません。可能な限り、音に触れさせる授業を追求したいと思っています」と飛沫対策を講じたリコーダー使用の継続を望む。
3月6日が期限とされた「まん延防止重点措置」は18都道府県で同21日まで延長される。対象外の地域、解除後の対象地域も含め、音楽の授業や卒業式などの行事での演奏を安全に実施するため、このリコーダーカバーも含め、さらなる飛沫感染予防対策の工夫が今後も模索されていくことになる。