作画を大胆チェンジの東京藝大生 漫画家の夢が再燃 ギャグ×バンド・デシネで挑む

山本 鋼平 山本 鋼平
大次郎忍法帖
大次郎忍法帖

 くすぶっていた夢が、新たな画風でよみがえった。東京藝術大学デザイン科4年生の北村徳郎さん(22)は卒業制作として漫画作品「大次郎忍法帖」を発表した。学生生活の4年間で制作した純粋な漫画作品はわずか。さほど漫画創作に時間を費やしてこなかったが、フランス語圏のコミックジャンル「バンド・デシネ」との出会いで扉が開いた。

 主人公は忍者の大次郎。おむすび、失恋、敵襲、忍術とモチーフ満載のハチャメチャなギャグ漫画が、バンド・デシネをほうふつさせる芸術的で緻密なカラー画で描かれている。通常の漫画で用いるB4サイズより一回り大きいF6水彩紙に、主線は墨汁と筆で引き、水彩絵具、クレヨン、鉛筆で仕上げた。

 2月初旬まで上野で開催された東京藝大卒業・修了作品展での展示では、来場者から好意的な感想を直接聞いた。「作品を描いていく中で自分でも自信が出てきて、仲間からの評判も高かったのですが、卒展でも温かい声を掛けていただき、本当にうれしかった。プロの漫画家を目指して頑張っていきたいです」。大きな手応えを得て、進むべき道が明確になった。

 北村さんは大阪生まれ、埼玉育ち。漫画好きな両親の影響で幼い頃から手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らの名作を読んだ。小学1年から漫画を描き始め、「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦に憧れた。城西川越中・城西大学付属川越高では美術部に所属しながら漫画制作を続けた。「デザインや構図を学べば、きっと漫画の役に立つ」と東京藝大デザイン科に進んだ。

 しかし、入学後はアニメ等の映像制作、有名アーティストのMVアニメ、音楽フェスのステージデザインを手がけるなど、漫画とは距離を置いた。一念発起して2年時にナンセンスなストーリー漫画を仕上げ、有名出版社に持ち込んだが芳しい評価を得られず、再び漫画から遠ざかった。「編集者からは『新しいのができたらまた来てね』と言われただけでした。自分でも描いてて、何か違う、面白くないな、と思っていたので、当然の結果でした」。それでも、漫画への情熱は静かに抱き続けていた。

 昨年春から自身のSNSで4コマギャグ漫画を投稿すると、高評価が続いた。夏に卒業制作について教授と話し合い、漫画作品の意欲を伝えたところ、バンド・デシネを紹介された。それ以前から展覧会で観たバンド・デシネには関心を持っており、画風を変えることに戸惑いはなかった。作画は著名作家ニコラ・ド・クレシーの影響を受けながら、4コマ漫画で培ったギャグ作品を試作したところ「こりゃイケるかも」と確信。自信と好評を手にする卒業制作完成に至った。

 春からは同大の大学院に進学する。「人に伝えるための構成力など、学んだことは無駄ではなかった。これからは積極的に出版社に持ち込みをしていきたい。いつか『大次郎忍法帖』が出版されるくらいになれれば」。学びをさらに深めつつ、ギャグと作画を磨いていく。

 ※「大次郎忍法帖」は北村さんのHP(https://tokuropolpol.wordpress.com/)で全編公開中。

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