「サンダーバード55/GO GO」CG時代だからこそ見直したいアナログ映像の斬新さ

沼田 浩一 沼田 浩一

 現在「サンダーバード55/GO GO」が劇場と配信で絶賛上映中である。1960年代半ばに日本でも大ヒットした人形劇「サンダーバード」の新作だ。2015年に英国で制作された50周年記念作品が、本邦公開用に再編集された。未だ根強い人気を誇る「サンダーバード」はこれまでにも2004年に実写映画、2015年からは3DCGアニメとしてテレビシリーズが制作されたが、「サンダーバード55/GO GO」はそれら最新映像技術を駆使したものとは大きく異なる。オリジナル同様、スーパーマリオネーションと名付けられたアナログ技術によって制作されたのである。つまり、ピアノ線で人形を吊って操演するというものである。

  驚かされるのは徹底した「当時の技術」の再現だ。CGに頼らず、当時のままの撮影方法が取られた。人形やミニチュア、セットを新たに制作し、オリジナルスタッフも招いてアドバイスを乞い、操演によってキャラクターに命を吹き込んだ。人形やミニチュアを吊るピアノ線をCGで消すなんていう野暮なことも一切なし。ただし、本編に含まれたメイキング映像によると、当時作られたセットやミニチュアのサイズを計測するためにコンピュータ技術を使用されたとのことである。映像自体にはコンピュータで手を加えないこだわりに「サンダーバード」への愛を感じた。

  CGが当たり前の現在だからこそ、このアナログ感は斬新であった。出始めの頃のCGは「いかに実写に迫るか」を目指しており、それがある程度実現すると「CGを使用しない」ことが目立つというのはなかなかに皮肉なことだ。手作業の苦労の跡のようなものが映像に残されていればなおさらである。

  ここで筆者がかつて驚愕したアナログ技術の映像作品をいくつか紹介しよう。まずはチェコの「水玉の幻想」(1948年/監督:カレル・ゼマン)。チェコはガラス工芸が盛んな国で、ゼマンはなんとガラス細工で作られた人形のアニメを作った。もちろん、可動式のガラス人形など作れるはずがない。なので、大量に用意された少しずつ動きの異なるガラス人形を、差し替えながらコマ撮りすることでアニメを可能にしたのである。セットもすべてガラス細工という「水玉の幻想」は唯一にして無二の立体ガラスアニメであった。

  同じ手法で木製の人形が伸びたり縮んだり表情豊かに動き回るアニメを制作したのがジョージ・パル。「パペット」と「カートゥーン」を足して「パぺトゥーン」と名付けた技法で多くの短編を生み出した。特に「TULIPS SHALL GROW」(1942年)は傑作として知られる。一見するとカチコチと思われる木製人形がニュルニュルと変形する様は観ていて不思議な感覚におちいる。

  操演と人形を使って夢のようなファンタジー世界を創造したジム・ヘンソンの「ダーク・クリスタル」(1982年)は究極のアナログ映像と呼びたい。ヘンソンは「セサミ・ストリート」のキャラクターを生み出したことで有名だ。「マリオネット」と「パペット」を足した「マペット」という技術を駆使し、「ダーク・クリスタル」では実写映画でありながら人間は一人も登場せず、すべて人形が演技するという驚異的な映像を作り上げた。

  たまにはこういった「CGを使わずにどうやって作ったの?」という作品に触れるのもいいものである。「サンダーバード55/GO GO」を観てそう思った。アナログの持つ底力にもう一度振り返ってみようではないか。

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