風間杜夫が72歳アングラデビューで「怪優」に!舞台「泥人魚」で役者魂、六平直政と水槽で奮闘

北村 泰介 北村 泰介
「泥人魚」で、岡田義徳(右)と水槽に入り、ずぶ濡れで熱演する風間杜夫=東京・Bunkamuraシアターコクーン(撮影・細野晋司)
「泥人魚」で、岡田義徳(右)と水槽に入り、ずぶ濡れで熱演する風間杜夫=東京・Bunkamuraシアターコクーン(撮影・細野晋司)

 劇作家・唐十郎氏による戯曲で、宮沢りえらが出演する舞台「泥人魚」が今月6日から29日まで、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演されている。会場に足を運び、かつて唐が主宰した伝説の劇団「状況劇場」が新宿・花園神社の紅テントで繰り広げたアングラ世界と、渋谷の一等地にある大劇場が地続きであることを、2人のベテラン俳優、風間杜夫と六平(むさか)直政の演技と肉体によって実感させられた。演劇人として長年にわたって両者を知る演出家の金守珍(キム・スジン)に話を聞いた。(文中敬称略)

 風間は今年6月、唐作品「ベンガルの虎」を上演した金の主宰劇団「新宿梁山泊」に出演。金が在籍した状況劇場の精神を受け継ぎ、花園神社に設営された紫色のテントを72歳にして初体験した。金は「風間さんは若い頃に状況劇場を1回見て、『ここは俺の来る所じゃない』と思われたそうです。優男(やさおとこ)が(同劇団の怪優)麿赤兒や大久保鷹には対抗できないと。時が流れ、風間さんが『自分の一生でやってないのはテントだ』とおっしゃったので、70代でアングラデビューです。素晴らしい」と経緯を語った。

 テント初体験から半年後の今回、風間はブリキ店の店主にして詩人の役を狂気とユーモアを交えて演じた。序盤、尻を突き出すと〝生理現象〟による大音量を劇場にこだまさせ、排せつ物を示す3文字を飛び交わせるなど振り切れまくった。金は「風間さんだから許される」と評する。表面的には下品な言動でも、それを包み込む芸と品があってこそ成立した。若き日に紅テントで脅威を感じた怪優たちに、数十年後の自分が重なっていた。

 世間的に、風間は出世作となった映画「蒲田行進曲」の銀ちゃん、TBS系放送の大映ドラマ「スチュワーデス物語」の教官など二枚目のイメージがつきまとうが、振り幅は広い。足跡をたどると、銀幕デビューとなる日活ロマンポルノの数多くの作品ではナイーブな青年を好演して同レーベルが青春映画であることも認識させ、舞台では劇団「つかこうへい事務所」の看板俳優や、余芸の域を超えた〝落語家〟として「火焔太鼓」などの古典落語をものにするなど表現の引き出しは多い。

 風間は今年、菊田一夫演劇賞の演劇大賞を受賞した。金は「テントから大劇場、その中間の劇場、あと一人芝居も。すごい先輩がいるおかけで僕たちも頑張れる」と励みにする。

 状況劇場の紅テントでは水が大量に使われ、前方の客はビニールなどを手に観劇していたものだ。その「水」は今回の舞台で泥水の入った水槽として存在した。風間は岡田義徳と共に水槽に入って会場を沸かせたが、その後に入水した六平の驚異的な肺活量に驚かされた。水槽の底に貼り付いたまま出てこないのだ。

 金は「ろっぺい(六平)ちゃんは素潜りの天才で、実はダイバーなんです。よく海に行きましたけど、アワビとか伊勢エビを取ってくる。1分くらい平気で潜ってるんです」と明かす。

 状況劇場を出て新宿梁山泊を立ち上げた金と六平。87年6月、記者は法政大学の学館大ホールでの旗揚げ公演「パイナップル爆弾」を見たが、水ではなく、パイナップルが丸ごと一個飛んできて左胸に直撃した体感を刻んだ。観客も肉体で感じる唐イズム。金は「僕らは状況劇場を辞めたつもりはなくて、紅テントの精神を受け継くぞと。いい役者がいてこそ輝きを持てる」と原点を語った。風間や六平らが体を張った「水槽」の意味も聞いた。

 「水槽は、ドラえもんの『どこでもドア』じゃないですけど、どこかにワープする地下水脈につながっている。水に入って出たら満州というイメージの飛躍がある。公衆便所の便器が海につながっていて、唐さんにとって汚物は聖なるもの。今回もうんこが(セリフに)出てきますけど、あえて汚物を出して、それを浄化するファンタジーがある。水槽の水は子宮の羊水。そこにはこの世に生まれてこなかった子どもたちがいる。僕は唐作品を『ファンダシック・ホラー』と呼んでいます」

 公演前、風間は報道陣に「作品の全編が見どころ。あらゆる瞬間が刺激に満ち満ちている」と語った。「唐さんはアングラと言われたことに嫌な思いをされたんですが、僕は逆にアングラという文化になって欲しいと思っている」と願う金にとって、その魅力を世間に伝える媒介になる存在が風間だった。盟友・六平と共にテント芝居の精神を知るベテランのアンサンブルを堪能できる舞台。28日の昼夜と千秋楽29日の2日3公演を残すのみとなった。

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