「オリバー君」来日の仕掛け人が明かす舞台裏 あの有名人が世話係、女性との初夜撮影は中止に

北村 泰介 北村 泰介
来日記者会見の会場に登場したオリバー君。詰めかけた報道陣がカメラを一斉に構えた(写真提供・康芳夫)
来日記者会見の会場に登場したオリバー君。詰めかけた報道陣がカメラを一斉に構えた(写真提供・康芳夫)

 あれは何だったのだろうか?昭和の日本を振り返って、ふと、そう思う出来事がある。その一つが「オリバー君」ブームだった。オリバーと名付けられた米国在住のオスの生物が「チンパンジーと人間の中間であるヒューマンジー」として来日。連日の報道を経てゴールデンタイムのテレビ番組に出演し、全国的な話題となった。仕掛け人の興行師で、84歳の現在もYouTube番組の配信などで精力的に活動する康芳夫が、よろずニュースの取材に対し、「オリバー君狂想曲」の舞台裏を明かした。(文中敬称略)

 作家・村上龍のデビュー作「限りなく透明に近いブルー」がベストセラーとなった1976年、日本のお茶の間では「限りなく人間に近いサル」が話題になった。くしくも同作が芥川賞を受賞した同年7月、オリバー君は米国からチャーター機で羽田空港に降り立った。康は著書「虚人魁人」(学研)でその経緯や当時の熱狂を記した。ちなみに、康が企画した「アリVS猪木」戦の翌月のことだった。

 スコットランド・ネス湖でのネッシー探索に区切りを付けた後、康はニューヨークにいる友人の弁護士が「チンパンジーとも人間とも判別できない未知の生き物」を手に入れたという話を聞いた。興行師の直感が働いて渡米し、マイアミにある弁護士の別荘に住むオリバーと対面。「人間と同じように腰や膝を伸ばして歩くなど、その挙動が人間的だった」という直立二足歩行に驚いた。ビールを飲み、タバコも吸った。

 オリバーがコンゴで捕獲された60年頃、同地域の一部ではチンパンジーと人間の住民が同居して混血が生まれているという説もあった。「染色体の数が人間46本、チンパンジー48本なのに対し、オリバーは47本と、その中間だった」(康)。この数字が混血説の根拠だった。

 日本テレビ系「木曜スペシャル」への出演が決まり、76年7月、羽田に到着した身長約140センチのオリバーは、帽子をかぶってチャーター機のタラップを降り、当時1泊数十万円という都心にあるホテルのスイートルームに宿泊した。身の回りの世話をした「オリバー番」は、テレビ制作会社のアシスタント・ディレクターで当時25歳の伊藤輝夫。後のテリー伊藤だった。

 康は「駆け出しの演出助手だったテリー君には後年対面した時に『康さん、あれはただのサルですよ』と言われたんだけど、一方で彼は『テレビは何でもできる』という面白さが分かって自信を持った。その後、テリー君は『天才たけしの元気が出るテレビ』という番組をヒットさせて、一躍、男を上げた」と、テレビマンとして開眼した契機の一つとなったと指摘する。

 予期せぬことも起きた。「オリバー君の子どもを産みたい」という女性が現われたのだ。

 「子どもを産みたいと本人の方から言ってこられた。タレント志望の若い女性で、後年、再会した時は京都で占い師になられていた。オリバー君の方も、人間の女性の裸の写真を見せると勃起した。『人間が条件反射を植え付けた』という説を唱える人もいたが、僕はそう思わなかった。人間の女性に対して性的な身体反応を起こしたということは、彼が人間とサルのミクスチャーであることの証明であると今でも思っています」

 大手映画会社からドキュメンタリーとして、オリバー君と女性の「初夜」を撮らせて欲しいとオファーもあったが、直前に警視庁からストップがかかった。「日本に獣姦罪はないが、女性を傷つけた場合は傷害罪で逮捕する」。ここでトラブルが起きるとテレビ出演もできなくなる。その計画は断念した。

 同年7月、「木曜スペシャル」は「謎の怪奇人間オリバー!」と題して放送され、「ヒトかサルか」を鑑定する様子をオンエアして24%以上の高視聴率をあげた。日本テレビの名物ディレクター・矢追純一が番組を担当し、康の母校である東京・海城高校の後輩だった徳光和夫アナが進行を務めた。同番組では、血液採取のために麻酔を打った際にオリバーが死んだら500万ドル(当時のレートで約15億円)を補償するという契約を米国の弁護士と結んでいた。放送後、「単なるチンパンジー」とも報じられたが、全国で興行を打って大盛況。大衆が求める潜在的なロマン、それがネッシーや雪男であり、実際に来日したオリバーだった。

 オリバーは米国で余生を送り、2012年6月に死亡した。「虚実皮膜」に価値を見いだす康にとって、「虚」と「実」が薄い皮膜を挟んで表裏一体となった世界にオリバーはいた。科学的な証明以前に、ブームが起きたという事実は残った。時が流れ、消えたと思っても、いまだに残り火がくすぶることがある。今年になって、康は海外のメディアから「オリバー君」に関する取材を受けたという。

  ◇      ◇   ◇

【康芳夫オフィシャルHP】

 https://yapou.club/

【YouTubeチャンネル「康芳夫×虚霧回路」】

https://www.youtube.com/channel/UCazxg9YeaTxvkWZaGUO98Hg

よろず〜の求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース