科学的には割り切れない現象と遭遇することがある。「怪談」「心霊現象」などと称されることもあるが、長い歴史の中でさまざまな話が「都市伝説」のように語り継がれてきた。タレント、プロレスラーなど幅広く活躍し、特撮キャラクターの収集家としても知られるコラムニストのなべやかんが不思議で怖い話をつづった。
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地方局で番組をやっていた時、収録終わりで、スタッフ&共演者で次回の企画会議をしていた。「心霊スポット巡りはどう?」と提案すると地元でバーをやっている共演者のマスターが「怖い思いをしたことないでしょ?俺はあるから…」と言った。こんなことを言われたら話を聞きたくなる。さっそく、マスターに話を聞いた。
1980年代後半、マスターは営業の仕事で東北地方のとある町に車で出かけた。真夏の昼間、表には人がいない。車を走らせていると、突然、男の悲鳴が聞こえた。車を停止し、声がした方向を見ていると、首から血を噴き出したパンツ一丁の男がこちらに向かって走って来るではないか!血だらけの男はマスターの車の窓ガラスを叩き、「助けてくれー」と叫んだ。突然の血だらけ男の出現にマスターは恐怖で動けなかった。首からスプレーのように血が出ている。車の窓ガラスには、血の手形がべっとりと付いた。
「待てー」。その声を聞くと男はまた走り出す。今度は牛刀を持った女が現れた!力尽きた男はマスターの車の後方で倒れると、追いついた女が牛刀で男の腹をメッタ刺しにし、「父ちゃんごめん」と言って自分の手首をかき切ったそうだ。
「今でも覚えてます、首から血が噴き出した男と手首を切った女」と、マスターは沈痛な面持ちで語った。
事件は、浮気をしていた女が、「私が浮気してるのだから、旦那も浮気してるに違いない」と思いこみ、旦那を刺したそうだ。刺された旦那は表に飛び出し、そこで、マスターに会ったのだ。
数年後、マスターは久々に営業でその町の理髪店に行くと、従業員とあの事件の話になった。
「実は、私が第一目撃者なんです」。マスターが、そう言った途端、引きつった顔で店員が言った。
「うちの店のオーナーが、殺された旦那と同級生で、事件後、お線香をあげに出かけたら、『あそこに●●君がいる、そこだ、走ってる、そこ!』と叫び、気を失い、病院に入院しちゃったの。怖いわよね。あなたも、お線香をあげに行ったら?」
マスターは気が進まなかったが、殺された男が成仏できればと思い、お線香をあげに現場に行った。現場に着くと、あの時の情景がハッキリと思い出される。手を合わせ、すぐにその町から立ち去った。
家に着き、車を降りようとした時、窓を見ると人の手形が付いていた。あの時の血の手形と同じ場所に…。話し終えた後、マスターは「心霊スポットはやめましょう」と泣きそうな顔をしていた。
この記事を書く前にマスターに連絡し、当時の話を再確認したところ、新たな事実が発覚した。マスターは次のように証言した。
「この旦那さんは自分が刺された直後、隣の家に助けを求めたところ、留守だったので諦め、その場から逃げ出して(車に乗っていた)私と遭遇したのですが、実は、数年前に私が再婚した今の嫁さんの家が、その時、留守だった隣の家だったんです。こんな偶然ありますか?」
陰惨な事件とマスターの因果関係。事実は都市伝説より恐ろしいのである。