36歳でオタク開眼、37歳でイラスト初挑戦、43歳でプロ漫画家に 44歳で思う「今が一番若い」

山本 鋼平 山本 鋼平

 漫画家・イラストレーターのモトカズさんが、44回目の誕生日を迎えた9月5日に自身のツイッターを更新。投稿した次のツイートが話題を呼んだ。

 「あと何かを始める後押しにになればと思うんですが、44歳の私がオタクになったのが36歳、絵を描き始めたのが37歳、雑誌に漫画を載せていただいたのが43歳なので、何かを始めるのに遅いってことはないですね!今が一番若い!よい時代になったもんです」

 2万3000件を超えるいいね、7000回を超えるリツイートの反響を「ひと昔前の漫画家といえば10代で雑誌の賞を取らなければ…みたいなイメージがありましたが、今はネットのおかげでいくつになってもチャンスが得られる時代になりました。夢や目標は何歳からでも持つことができますし、それを叶えられるとすれば今始めるのが一番若い。そういう考えに多くの方から共感をいただいたのは、私自身がこれから様々なことに挑戦していく上での大きな励みにもなりました」と語ったモトカズさん。昨年の芳文社「まんがタイムきららMAX」11月号、12月号に『おしかけリブート』が掲載され、43歳にして商業誌デビュー。現在は企業PR案件や、企業で活動するVTuberキャラクターのデフォルメデザインなど、漫画やイラストの仕事が舞い込むようになった。妻と長男の3人家族。兼業作家として今も生まれ育った大阪で暮らす。その個性的な歩みについて、話を聞いた。

 転機は偶然だった。当時6歳の長男のため、頻繁にレンタルビデオショップを利用していた2013年、アニメコーナー内の「深夜アニメ」のカテゴリに目が留まった。「猛プッシュされていた『化物語』に興味を持ち視聴したところ、とても面白く大人向けアニメの魅力を知りました。当時は趣味がなかったため『何か趣味を持ちたい』という気持ちからツイッターアカウントを作りました。最初はプログラミング言語であるJavaを勉強するアカウントにするつもりでしたが、息子向けのアニメと一緒に深夜アニメもレンタルするようになり、いくつかの深夜アニメを視聴していく中で自らをオタクであると認識づけるきっかけとなるアニメ『日常』『キルミーベイベー』と出会いました」。36歳の〝目覚め〟はツイッターを通したファン同士の交流で深化。さらにファンアートに関心を寄せ「私より年上のイラストレーターもいました。そこで自分自身も絵が描ければより楽しく同好の士と交流できるのではないか、絵を趣味にできたらいいなという期待がありました」と液晶タブレットを購入し、フルデジタル環境を整えた。

 37歳でのイラスト挑戦。本格的な絵画経験はなかったが、中学時代からパソコンに触れ、大学時代には企業ウェブページを制作し、パソコンの家庭教師を行うなど意欲的にIT技術を学んだ経験が生きた。

 「ファンアートを描く中で同人誌の存在を知り、私自身も同人活動を始めました。中でも『キルミーベイベー』の同人誌を多数作りましたが、とにかく原作漫画が大好きでしたので細かいところまでじっくり見て、そこから漫画の描き方を学びました。好きな作品を自分でも同じように描いてみたい!そんな気持ちから繰り返し練習しました。とにかく目指す理想の絵が明確だったので、ブレずにまっすぐ追求できたのだと思います。自分の絵が憧れの作品に少しでも近づいたと感じた時は喜びを感じました。同人誌即売会(コミケなど)の日程に合わせて、仕事をしながら締切までに仕上げるのは毎回苦労しましたが、それ以上の楽しさややりがいを感じていました」

 2015年末のコミックマーケット89で、51人が参加した「キルミーベイベーの同人合同誌」を頒布し、同人デビューを果たした。その後も同様のスタイルで12冊ほど同人誌を作った昨年の春、雑誌の編集者に見いだされた。「オリジナル作品は経験がありませんでしたが、担当様やご縁のあった作家より『読者に説明していないことは伝わらない』『話がうまく繋がっていない』など、多くのアドバイスをいただきプロの目線を学ぶことで大きく成長できました。同じく漫画連載を目指す仲間がいたことがとても大きく、互いに切磋琢磨した日々の積み重ねが上達できた理由だと思います」と感謝の思いとともに、プロへの道を切り開いた。

 44歳を迎え夢は膨らんでいる。「もっと早くから絵を描いていればよかったとは思っていません。始めたタイミングが自分にとってベストだったと思えるからです」とキッパリ。「漫画で連載を持ちたいです。公式アンソロジーなどへの参加にも憧れています。最近はアニメ作画風のイラストを描いているので、アニメ関連のお仕事もできれば嬉しいです。家族の関係性をテーマに、思いっきり笑えて、そして時には泣ける、そんな感情を揺さぶる漫画を描きたいです」と先を見据えた。「妻はいつも私の仕事や趣味を理解、応援してくれます。息子も絵や漫画を書く父親を好意的に見てくれています。デビュー作が掲載された雑誌は家族で一緒に読み、妻はお祝いのケーキを作ってくれました」と、家族の支えも大きな力になっている。

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