ぬいぐるみ治療クリニック「美形にするだけではダメ」思い出に寄り添う ぬい撮り向け施術も人気

 形が崩れたり生地が傷んだりしたぬいぐるみを〝治療〟する「専門病院」がある。杜の都なつみクリニック(東京都台東区)の箱崎なつみ院長は「ただ美形にするだけではダメ。本来の表情や体形まで、お客さまの頭の中のその子を想像して元に戻してあげるという、寄り添う加減が難しいと思います」と治療のポリシーを語った。

 開院から6年目の現在までに治療してきたぬいぐるみはおよそ1万2000体。前職の洋服のお直し店でぬいぐるみを扱った経験を含めると、約10年間ぬいぐるみの修復に携わり続け、さまざまな「保護者(ぬいぐるみの持ち主)」の思いに応えてきた。「ただ直すだけでは保護者さまに納得していただけない」。全身の生地を一新して「丈夫にしたい」と考えるのか、ボロボロでも「できるかぎり今の体を維持したい」のか。保護者の希望に合わせてベストな治療法を模索する。

 治療前には、ぬいぐるみごとに異なる縫製方法や素材を問診・診察。保護者によって何度も手縫いで穴をふさがれてきたぬいぐるみが入院した際には、元の形がわかりにくく、型紙をおこすために「(ぬいぐるみが)元気だった頃のお写真」を見ながら作業をしたこともあったと話す。

 けがが少ない、入浴や毛並み改善などメンテナンス中心の入院基本パックは約1~2万円。生地の交換や体のパーツ復元をする「重傷」患者の入院費は約5万円~だという。「今の状態を保ちたい」方針の場合は治療の工程が増えるため、約10~20万円かかることもある。

 箱崎院長は「ただかわいい仕上がりではダメ」と施術の難しさを語る。「例えば目が、本当だったら左右ぴったり同じ位置にあるのが一般的にはかわいいかもしれないですけども、お客さまが、もともとその子のお顔が右の方が目が上だった、お鼻がもう少しつぶれていた(と言うことがある)。ただ美形にするだけではダメで。その子本来の表情や体形まで、お客さまの頭の中のその子を想像して元に戻してあげるという、寄り添う加減が難しいと思います」

 長年連れ添ったぬいぐるみの外見だけでなく、中の綿にも愛着がある保護者には「こころハート」の施術も喜ばれるという。元の体に入っていた古い中綿の一部をクリーニングし、ハート型のガーゼに包んで新しい体の中に残すことができる。他にも、「レーシック治療」(目のパーツを研磨し輝きを取り戻す)や「お顔のリフト調整」、「美白ホワイトニング」、「うす毛の植毛」など、まるで人間の治療のような名前がつけられたメニューがそろう。

 入院するのは重傷患者がほとんどだが、「ほぼ新品」のぬいぐるみが多く受ける珍しいメニューもある。「トイスケルトン・ワイヤー施術」は、ぬいぐるみの体に骨組みを入れ手足を動かせるようにする施術。手足が動くことで「ぬいぐるみが生きているように見える」といい、ぬいぐるみと外出し写真撮影する「ぬい撮り」を楽しむ保護者から需要があるという。

 「推しのキャラクターを一緒に外に連れ出したい」という人が多く、トイスケルトン・ワイヤーの施術を受ける8~9割はキャラクターのぬいぐるみ。骨組みで体の内側が傷つかないよう、専用の布で包んでから体内に入れる。「お体への負担を軽減しながら入れていくようにしています」と配慮を明かしていた。

【写真14枚】毛並みふんわり元気になった「軽傷」のぬいぐるみ

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