海外旅行ガイドブックで有名な「地球の歩き方」は、世界各地の常識や雑学を横断的にまとめた書籍「旅の図鑑シリーズ」を昨年から出版している。海外渡航が制限される状況下で発売された、従来の〝旅行手引書〟のイメージを覆した本の数々に、SNSでは「本気で生き残ろうとしている」などと話題になった。「地球の歩き方」編集長の宮田崇氏と同プロデューサーの福井由香里氏が、ガイドブックの現況と「生き残り」をかけた企画への思いを語った。
「旅の図鑑シリーズ」は20年7月発売の「世界244の国と地域 2021~2022年版 197国と47地域を旅の雑学とともに解説」からスタート。当初は、20年に開催を予定されていた東京五輪を意識して作られた企画だった。「この本を読みながらオリンピックの開会式を見ていたら、一生忘れない開会式になるなと思って作った」(宮田氏)という同書には、「虫歯予防のために水道水にフッ素が添加されている国(オーストラリア)」、「航空機にひとり1羽までハヤブサを持ち込める国(カタール)」など、地球の歩き方ならではのトリビアが盛り込まれた。
狙いの東京五輪は1年延期になったが、「みんなが海外に行きたいと思っていた時期と重なったので反響をいただきました」(福井氏)。その後も「世界のすごい巨像」や「世界の魅力的な奇岩と巨石139選」などの続編を制作し、現在は第9弾まで発売されている。
「地球の歩き方」は1979年に創刊され、40年以上出版を続けている。「なので、こういう『地球の歩き方』の知見が反映された本(旅の図鑑)も出せる」と、宮田氏は胸を張った。「―図鑑」には、「地球の歩き方」編集部で約20年以上働く宮田氏と福井氏や、初版から40年以上関わってきたスタッフらが参加。「今まで載せようと思っても載せられなかった情報を集めて入れている」と説明し、これまでのガイドブックにスペースの都合で入りきらなかった知識が集結したとアピールした。
「―図鑑」が好評を博す一方で、ガイドブックの売れ行きは低迷した。「海外への渡航者(数)に比例するので、正直、売り上げも激減でした」(福井氏)。現在は海外へ取材に行くことができず、20年8月の発行分を最後に改訂版の制作を見送っている。福井氏は「旅行が解禁になれば、またみなさん旅行するようになると思うのでそれに合わせて改訂版を作っていく予定です」と話した。
本の売れ行き低迷だけでなく、海外旅行関連の事業環境の変化を理由に事業譲渡され、今年1月から運営会社が変わるなどの波乱にも見舞われていたが、SNSの投稿をきっかけに再び注目を集めた。宮田氏は「『地球の歩き方』をどう守るか、全員が一丸となって動いてきた。読者やファンの方が温かい目で見てくれているということは強く感じている」と感謝。「『地球の歩き方』にお世話になった」とのコメントが多く見られたといい、「そう言ってもらえる媒体なんだということが非常にうれしくて。『お世話になりました』と言ってもらえるように努力するしかないです」と意気込みを語っていた。