吉本興業の所属芸人たちが、共通の趣味を持つ者同士が集まり、さながら学校のクラブ活動のように盛り上がっている「ブカツ!プロジェクト」。現在、96の部が存在し、中でもプラモデル部は部員21人を誇る最大級の部となっている。
その部長を務めるのが、お笑いコンビ・パンクブーブーの佐藤哲夫。人気アニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル、通称「ガンプラ」の公式世界大会「ガンプラビルダーズワールドカップ」の国内大会で準優勝に輝いたほどの腕前だ。
佐藤が初めてプラモデルに出会ったのは幼稚園時代。「当時、ガンプラブームが始まったころで、そこからプラモデルにはまりまして、小、中、高校生まではずっと作ってましたね」という。高校卒業後、大学を中退してお笑いの道に入ったため「かなり貧乏な生活で、電気も水道もガスも止められてたので、プラモは買えないし、作れなかった」が、2009年に「M―1グランプリ」を制覇し、翌年結婚。同年に誕生した長男が2歳になったころ、プラモデルに興味を持ち始めたのがきっかけで、佐藤のプラモ愛も再燃した。
昨今のコロナ禍を受け、「家で過ごすことが増えてきて、すごくはやってますよね。その意味では、プラモデルに接する〝モデラー〟の層がだいぶ変わったなという気はしますね」と分析。プラモデルの作り自体は複雑になっているという見方もあるが「(作る)難易度は下がってますね」とキッパリ。「主眼をどくに置くかなんですが、ガンプラで言えば、パーツ数は増えまして、複雑にはなっているけど、『スナップフィット』という技術ができて、昔は接着剤を使っていたのが、今ははめ込み式になっている。接着がやっぱり難しいんですよ。失敗したらやり直しがききませんし。そういう意味では、難易度は下がっている」と話した。
一方で「パーツ数は非常に増えてますんで、簡単にはなって、誰でも組み立てられるようにはなっているんですけど、作業に掛かる時間は増えている。カッコ良く作るというの点では、昔の方が難しかったんじゃないですかね。ガンプラ自体の精度があまり高くなかったので、合わせ目が目立っちゃったり、接着して自分でマスキングして色分けもしなければいけなかった…」とも指摘した。
さらにトークは熱を帯びる。「僕ら、模型好きの人間からすると、ガンプラは説明書通りに組み立てて終わりじゃないんです。そこからどういう塗装をしていとか、どういう改造をしていくか、そこからが楽しい。普通に組んで、ある程度仕上がったら、さらにカッコ良くするにはどういう表現をしていけばいいのか、という部分ですよね」と切々。吉本の「プラモデル部」では、プラモ好きの芸人が集まり、プラモを使ったお笑いライブなどを行ってきた。「プラモでるは家にこもって楽しむのが主流だというイメージをもたれていると思うんですが、可能性は無限にあるし、エンターテインメントとして非常に活躍できる場所というのは多いと思うんです。そういうのを僕らはいろんな場所で探して、『こういう遊び方もできるよ』と提案できたらと思っています」と言葉に力を込めた。
とはいえ、根本的にプラモデルが「趣味」のカテゴリーであることは間違いない。「仕事にたまたまつながることがあるだけで、あくまでも趣味の集まりです、基本的に、仕事にはしたくない。仕事って思っちゃうと、『やらなきゃいけない』と思う。趣味って、やらなきゃいけないと思ってやるもんじゃないなと。仕事でも充実しはしていますけど、やっぱり嫌なこともあるし、我慢しないといけないこともある。そんな疲れを癒やすアイテムの1つが、プラモなんですよね」と笑った。
ガンプラの国内大会で準優勝し、世界に手が届くところまで来ている佐藤。「漫才はどこまでいっても、〝世界〟はないですからね、『M―1』を取って日本一だと言いましたけど、世界一はないんですよ。『M―1』や『THEMANZAI』で優勝を目指していたころ、やっぱり漫才は将来や生活がかかっているから、やっていても楽しくない。必死ですよ。食べていくために血へどを吐いてやってたわけです。そうしないと生きていけなかった。プラモデルに関しては、とにかく楽しく。一生懸命はやるんですけど、悲壮感は一切ない。疲れたら休めばいいし、少しずつやっていけばいい」と話した。
「機動戦士ガンダム」という作品の魅力については「ロボットアニメの中で、世界で一番広まっているコンテンツなんじゃないですかね。すごい発明だと思います」と説明。「ロボットアニメというものそのものに変化を一番与えた作品なんじゃないかと。ガンダム以前と以後で〝歴史〟が別れるのも分かります、SFなんですけど疑似リアルを持ち込んだ作品」と持論を展開した。
その上で「実は全部つながって来てのガンダムだと思う。『宇宙戦艦ヤマト』がなければガンダムもありませんし、『スターウォーズ』がなくても生まれなかったんじゃないかな」と推測した。さらに、ガンプラがプラモデル会に与えた影響についても言及。「結構大きかったと思う居ます、キャラクターモデルに関して、それまでは『模型』ではなく『おもちゃ』という感覚が根付いていた」と当時を振り返った。
今後については「プラモデルを買って組み立てるだけではなく、自分たちで〝原型〟作りたいですね。子どもがパッと手に持って遊べる大きさでいいので、誰かの作ったものを改造してオリジナリティーを出すのではなく、完全な自分の作品を生み出してみたい」と夢を語った。
今年4月には、書籍「吉本プラモデル部活動記プラモデルを愛してやまない芸人たちの感動の記録」を発売した。「僕らにはプロモデラーの方々のような技術もありませんが、唯一プロモデラーの方より持っているのは発信力。より多くの人たちが、そんなに難しく考えずに、ちょっと手に取ってみて楽しめればいいなと。模型の楽しみ方を、どういう風に楽しんでるかを知ってもらえたらとという本です。これを読んだからといって、模型的に技術が上がることはまったくないです」と趣旨を説明しつつ、「今まで模型に興味がなかった人も、なんだか楽しそうとだって思ってもらいたいです」と笑顔でPRした。