注目の劇団チョコレートケーキが因縁作『一九一一年』10年ぶり再演、自由を現代に問う

山本 鋼平 山本 鋼平

 設立20年を迎えた劇団「チョコレートケーキ」が7月、演劇『一九一一年』を10年ぶりに再演する。12人の社会主義者が証拠不十分なまま死刑に処された大逆事件が題材。被告人の管野須賀子への取り調べを軸に、帝国主義という国家の思惑と、〝わたしの意見〟を主張して死刑台に向かった個人を描き、その生き様を現代に投げかける。『治天ノ君』で読売演劇大賞選考委員特別賞、『遺産』で同優秀作品賞を受賞した同劇団。劇作家の古川健(42)、演出家の日澤雄介(45)に話を聞いた。

 国家権力の暴走と個人の自由を描く同作。日澤は「前回は権力が暴力装置になったら、というテーマ。今回は管野さんの自由の方に重きを置きたい」と語り、「演出は新作のように作り直すつもりです。内容的には真っ黒なんですけど、すごく青空みたいな作品にします」と続けた。新たな試みに共鳴するように、脚本に向き合った古川は「ラストシーンを書き替えました。そのためにラストシーンの一つ前にシーンを追加しました。それ以外はほとんど変わっていません」と話した。

 10年前。同作で主演女優の堀奈津美、脚本の古川が佐藤佐吉賞に輝いた。しかし、興行的には失敗で、約1年間活動が滞った。翌年の再起作2本立て『熱狂/あの記憶の記録』が評判を呼び、劇団は軌道に乗った。古川が「面白い作品ができたぞ、という手応えの割にお客さんに観られず心残りだった」と話せば、日澤は「今でも赤字だけど赤字幅が全然違う。当時でもう10年くらい活動していたはずなのに、販売のノウハウがなかった。いろいろな意味で小さかったですね」と振り返った。苦い経験だった。

 リベンジだけではない。古川が「富が偏る新自由主義は世界的な潮流ですが、日本で顕著になっている。10年前から非正規雇用の問題はこのままじゃおかしいぞとずっと言われている。そろそろ目を覚まさないと、我々は全て奪われてしまうぞ、ということに気づくには、このタイミングなのでは」と話すように、コロナ禍で閉塞感が漂う今だからこそ、再演の意義を見いだした。

 10年ぶりだが、両者の肩に力は入っていない。古川が「今だったら書かない書き筋だが、逆にそれはそれで、自分の若さが恥ずかしくも愛おしくもあります」と話し、日澤が「演出するときはいつも怖い。その感覚は変わっていない。でも支えてくれる友達は増えたかな。映像を使えるようになったり、知識は増えたかもしれない」と語る様に、ともに自然体で臨む。

 主題の自由とは何か。古川は「英語でフリーダム、リバティがあり、僕の中ではまずリバティが大事だと思っています。制度とか抑圧に対する自由を勝ち取らないと。我々は自由なつもりで様々なものにがんじがらめにされている。まずそこを認識して、それからの自由なのかなと思います」と語った。日澤は「僕はそこまで難しく考えていない。抑圧されていると自覚的になるよりは、今の自分の考え方や状況が自由なのか、と考えるきっかけになればいいと思う。各々が尺度を持っているという事を考えないで生きるのは良くない、と思っていて、そういう所から閉塞感は来るのかな。もっと視野を広げる作業が、僕の中の自由の感覚だと思います」と話した。

 堀をはじめ、出演俳優は前回とほぼ同じ。10年の歳月を経て、自由をどのように表現するのだろうか。古川は「結局100年前と人はあまり変わってないように思う。彼らは我々でもある。過去の事実を題材にして、俳優が生身でその時代を演じます。歴史的な事実よりも、俳優が何を抱えて舞台の上に立つのか、それをお客さんがどう感じるかの方がずっと大事だと考えています。俳優が背負った思いを通じて、疑問でも感想でも、何かがお客さんの心に残り続ければいい。それは何でもいいと思っています」と語った。上演は7月10日から18日まで、東京・世田谷のシアタートラムにて。オンライン配信も実施する。

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