「速読」と聞いて何をイメージするだろう。文字通り、文章を速く読むことだが、そこには人知を超えた能力の入口になる可能性があるのか、あくまで受験勉強や情報収集など実用面での効果が期待できるものなのか。今春、「誰でも速読ができるようになる本」(平成出版)を出版した「日本唯一の速読芸人」こと、ルサンチマン浅川に話を聞いた。
浅川は芸歴16年、速読歴25年の40歳。速読こそが人生だという。
「一般的には本を読む時に頭の中で音にして黙読しますが、パッとページを見てパッと頭に入るのが速読です。最初は2行同時とかでやっていくんですが、だんだん幅が広がって行って、本を開いて2ページ同時にパッと頭に入るようになる。活字が並んだページという映像の奥にある情報として頭に入る感じです。映像を頭に入れるというよりも、その映像の奥にある情報を頭に入れるような感覚です」
浅川は「脳科学」や「超能力」的なスピリチュアルな観点ではなく、「実際に速読できるようになること」に重きを置く。「速く読んでも遅く読んでも理解度が同じなら、速く読めば時間の節約にもなって他のことに有効活用できるし、いろんな分野の本を多読して知識が増えて人生が豊かになるという利点もある」。そう実用性を説いた。
「速読を始めたのは15歳くらい。高校生の頃に『スーパーエリートの受験術』という僕の人生を変えた本と出会い、そこに速読術の項目があったので、さらに『決定版!速読トレーニング』という本も読み、そこに書かれていた『ジョイント式速読法』の訓練を始めました。目を速く動かす眼筋トレーニングなどをして。高2の時には音読しなくても文字が読める『速読脳』になっていました」
大学受験時には「辞書トレーニング」で「視幅」(文字を見る視野)と「識幅」(文字を見る意識の大きさ)を広げた。辞書のページを「読む」のではなく、文字を絵画のように「ながめる」のだという。普通に読むと、文字から視覚を通して変換された脳内音声が発生するが、その音声を出すのではなく、ページの文字列に意識を置くことが速読のキモになるという。
「速読に対して『雑に読む』と思われたり、『うさん臭い』と言われることもあるんですが、歴史をたどると、本が速く読めたというケネディ大統領の影響から米国で生まれ、日本には韓国から『キム式速読法』が輸入される一方、それを否定する『ジョイント式速読法』が出てきてバブル期に速読ブームが起きた。もちろん、じっくり読みたい本はゆっくり読めばいいんです。小説は登場人物が多かったり、伏線が張られていたりして速読には向いていない。やはり実用書ですね」
これまで速読した本は約1万冊。都内の自宅に保管する速読関連の本は5000~6000冊という。「1万冊というと『おおっ』となりますが、25年間ですから年に400冊。そんなたいした数ではない。1日ほぼ1冊ですし」。1冊を1分ほどで読むので、立ち読みで済んでしまうが、「いいと思った本は買いますから」。だから、書店泣かせにはならない。
「僕は文系なので数学など知識がないジャンルの本は速読も難しい。また、英語はアルファベット26文字の配列で意味を成しているから速読しにくい。日本語は平仮名、カタカナ、漢字と絵のようにイメージがつかめて速読しやすい。ネットの記事や電子書籍も速読できますが、僕は紙の方がやりやすい。書籍のページをめくる楽しさもある。速読しても内容は忘れますが、2回目の速読でより頭に入ってくる。能力開発的な観点からだと頭がパンクするくらいまでやるといいです。筋トレと似ていて、限界までやると、次に読む時にもっとできるようになる」
ちなみに、「速読芸」は「1分で本を読んで、1分で概要を説明する」ものだという。「速読本を集めるようなマニアは僕1人で十分なので、読者の方には『速読もできるようになれば、いろいろ活用できますよ』ということだけを伝えたい」。それが基本のスタンスだ。
「昨年10月から書き出して、今年3月の出版まで5か月かかった本ですが、『1分で読みました』って言われたら、それは今まで僕がやっていたことなんだけど、自分が書く側に立ってみて『いい気持ちがしない』ということが分かりました(笑)。何か月も何年もかけて書かれた本を1分で読んでしまうという、ジレンマもありますが、ここはブレずに、この本も1分で読んでください。今後の夢としては、予備校とかで速読講座をやってみたいですね。まだ完全だとは思っていなので、もっと極めたいです」
速読という「ニッチなジャンル」を切り拓く。