難関国立大学として知られる大阪大学。さらに同大学院まで修了し、現在は経営者として活躍するNさん。「旧帝大」と呼ばれるエリートコースを歩んできた彼だが、その受験生時代を振り返ると、周囲からは「それで大丈夫?」と心配されるような、一風変わった勉強スタイルを貫いていたという。一体どのような勉強をしていたのか、Nさんに話を聞いた。
進学校に通っていたNさんが本格的に受験勉強を始めたのは高2の冬だ。周囲が静寂を求めて耳栓をする中、Nさんはあえてイヤホンを耳に突っ込み、ラジオを流しながら机に向かっていた(以下「」内、Nさん談)。
「僕、シーンとした場所だと逆に不安になるんです。それに試験本番って、絶対に無音じゃないですよね。隣の人の鉛筆の音や誰かの咳ばらい、監督官の足音、空調のノイズ……。完全な静寂でしか集中できない脳を作ってしまうと、本番で『あ、音が気になる』ってなった瞬間に終わるなと思って」
あえて『雑音』がある環境を日常化する。それがNさんの狙いだった。
「ラジオって、話し声や音楽がランダムに入ってくる。その『意味のある音』を聞き流しながら目の前の問題に没頭できれば、本番の咳ばらいくらい、どうってことなくなるんです。いわば、どんな環境でも集中力を切らさないための没入スイッチを作るトレーニングでしたね」
その独自の哲学は、参考書選びにも表れている。受験生といえば、不安からつい新しい問題集に手を出し、机の上に何冊もの参考書が積み上がるのが通例だが、Nさんの机は驚くほどシンプルだった。
「僕は『参考書の浮気』はしないと決めていました。特に数学と物理は、評判の良い1冊を決めたら、それがボロボロになって表紙が取れるまで使い倒していました」
Nさんは、『たくさんの問題を解く』ことよりも『1冊を極める』ことに注力した。ただ、答えを丸暗記するレベルではなく、解法のアプローチが身体に染み付くまで繰り返したという。
「1冊の問題集を3周、4周と回して、全問即答できるようにすると『このパターンはあれだ』と、問題を見た瞬間に解き方がひらめくようになるんです。あれこれ手を出すより、その1冊を完璧にしたという事実が、基礎力と自信にもなりました」
そんなNさんが、受験直前の1カ月に取った行動もまた、周囲を驚かせた。それは『難しい問題から逃げる』という作戦だ。
「受験の直前期って、みんな焦って過去問の難問とか、新しい知識を詰め込もうとするじゃないですか。でも僕は、今までやってきた問題集の簡単な問題しか解きませんでした」
ここには、Nさんなりの緻密なメンタルコントロール術があった。
「直前に一番怖いのは『解けない』という不安に襲われることです。だから、難しい問題は封印しました。簡単な問題をサクサク解いて、『俺、天才じゃん』『解ける、いける』という自己効力感を高めて試験会場に行きたかった。直前に必要なのは新しい知識じゃなくて、『自分はできる』という根拠のない自信なんですよ」
ラジオを聴き、1冊を追求して、難問から逃げる。一見、ふざけているようにも見えるその戦略は、すべて本番でのパフォーマンスを最大化するための計算だった。
「勉強法に正解はないけど、自分の性格に合った『勝てるルール』を自分で作れたのが勝因だったと思います。周りがどうこうより、自分がどうすれば一番心地よく戦えるか。それを知っている奴が、最後は強いんですよ」