塾なしで中学受験を目指そうとすると、塾という“伴走者”なしでこの長く険しい道のりを乗り越えられるのかと不安に思う親は少なくない。筆者の家では、長男(現在高校1年生)が塾に通わず中学受験を経験し、長女(現在中学3年生)は高校受験を選択し、次男(小学5年生)は、通信教材で自宅学習を継続中である。
三人三様の学習を見てきた中で、「この子は塾なしでもやっていける」と感じた瞬間がある一方、「このタイプは少し難しいかもしれない」と思うこともあった。その経験から、筆者が感じた「塾なし中学受験に向いている子どもの特徴」を3つ紹介する。
まず1つめは、家庭学習の習慣が身についていること。これは、いざ中学受験の勉強を始めようというときに、スムーズにスタートが切れるかどうかに直結する。塾に通えば時間割や課題が与えられ、ある意味“やらざるを得ない”環境が整っているが、塾なしの場合はそうした外からの強制力がないため、勉強のペースも内容もすべてを家庭で担う必要がある。昨日まで放課後は思いきり遊んでいた子が、ある日突然「今日から受験勉強を始めます」と言って机に向かうのは、そう簡単なことではない。
勉強のために机に向かうには本人の意志も必要だが、それ以上に大切なのは、小さい頃から「机に向かうこと」が日常の一部になっているかどうか。学習内容でなくても構わないので、例えばお絵描きやパズルなど、一定時間じっと座ってなにかに取り組む経験が積み重なっていれば、受験勉強への切り替えも比較的スムーズに進められる。逆に、そうした習慣がまったくない場合は、親が毎日「勉強しようね」と声をかけ続けなければならず、親子双方にとって負担が大きくなりやすい。
2つめは、物事を理屈で理解し納得できるタイプであること。中学受験は「合格」という明確な目標がある分、ある種の“戦略ゲーム”のような面もある。どこを強化すれば合格に近づくのか、苦手分野を放置するとどうなるのか、そういった因果関係を頭の中で整理し、自分なりに納得して動ける子は、親の声かけにも前向きに応じやすく、必要な学習に向かうことができる。
そもそも多くの子どもにとって、勉強よりも遊びのほうが楽しいのは当然だ。それでも中学受験に向けて勉強を続けているのは、「合格」という目的があるからこそ。塾なし中学受験では、時間や行動を管理してくれる人がいないぶん、子ども自身が「遊びたい気持ち」と折り合いをつけながら、自分を律して机に向かう必要がある。ゲームや遊びの時間を途中で切り上げて学習に向かう力が、通塾よりも強く求められる。
また、苦手単元は後回しにしがちだが、点数を伸ばすには弱点補強が不可欠である。表面上は「やりたくないことをやらされている」と感じる場面があっても、実際には「合格という目標に近づくための必要な学習」であることを理屈で理解できる子は、納得して取り組むことができる。逆に「なんでこんなことやるの?」「苦手なことは極力やりたくない」と感情が先に立つタイプの子には、塾なしで計画的に学習を進めるのは難しいかもしれない。
そして3つめは、素直さがあること。塾に通わない場合、親が学習サポートを担う場面が増える。進度管理や教材の選定、時には志望校についての話し合いなども含めて、親子の距離が近くなる。そんなとき、親の言葉に耳を傾けて対話ができるかどうかは、家庭で学びを続けるうえでの大きな鍵になる。もしこの段階で親子の間に衝突が続くようであれば、双方が疲弊してしまい、学習効果も下がりかねない。
あくまでこれは、筆者の家庭の経験から見えてきた一例だ。とはいえ、もしここで挙げた特徴のうち1つでも当てはまると感じる点があれば、塾なし中学受験という選択肢を検討してみてもいいかもしれない。すべての子どもに向いている方法ではないが、条件さえそろえば、無理のないペースで“わが家なりの受験”をつくっていくことも不可能ではないと思う。
<プロフィール>
野田 茜
2男1女のママライター。2022年、高1長男が完全塾なしで中学受験をし、偏差値(四谷大塚)60半ばの中高一貫校へ進学。現在、小5次男が通信教材を利用し自宅学習で中学受験に挑戦中。自身は中学受験未経験で大学まで公立育ち。中学受験の問題の難易度にまったく歯が立たず、逆に子供に教えられる。「ママ、教えてあげよっか?分かる?」と次男に心配される日々。