9年間住んだ賃貸マンションを退去することにしたAさん。退去前の掃除を始めたものの、浴室の水垢や台所の油汚れ、キッチンの隅に付着した汚れなどを見ながら「どこまで掃除する必要があるのだろうか」と疑問を抱いた。
そこでSNSで他の人はどうしているのか調べてみると、「クリーニング代を払っているなら無理に落とさなくてもよいのでは」「通常の汚れなら気にしなくて大丈夫」など掃除をしないでも問題ないという意見が散見された。一方で「頑張って掃除したのに追加費用を請求された」という怒りの声もあがっている。
では、退去時の掃除はおこなうべきなのか、もし必要な場合はどの程度行うべきなのか。不動産の売買や管理などを手がける株式会社マーキュリーの大庭辰夫さんに話を聞いた。
退去時の掃除で迷いやすいポイントとは
ー退去時の掃除は、どの程度までおこなう必要がありますか?
退去時の掃除は、部屋を新築時のような状態に戻す必要はありません。求められるのは、掃き掃除や拭き掃除、ゴミや私物の撤去など、日常的な清掃です。床や水回り、キッチンの油汚れ、トイレ、排水口など、簡単に落とせる汚れは取り除いておきましょう。掃除をせずに退去すると、汚れの状態によっては追加の清掃費用や原状回復費用が発生する可能性があります。
―掃除を専門業者に任せることができる場合や、入居者が無理に掃除しなくてもよい場所はありますか?
契約書にハウスクリーニング費用を借主が負担する特約があり、退去後に専門業者が清掃するケースはあります。ただし、ゴミや私物、簡単に落とせる汚れを放置してよいわけではありません。専門業者の清掃は次の入居者に貸すための作業、借主の掃除は使用した部屋を常識的に片付ける作業です。目的が異なるため、クリーニング費用を支払う契約でも最低限の掃除は必要です。
高所の窓や換気扇の分解清掃、設備の取り外し、強力な薬剤を使うカビ取り、壁紙や床材の張り替え、エアコン内部の洗浄、傷や穴の自己流補修などは、無理に行わないほうが安全です。設備を傷つけると、かえって費用負担が増えることがあります。落ちない汚れや損傷は、管理会社へ相談しましょう。また、クリーニング特約があっても、すべてが一律に有効とは限りません。借主が負担する範囲や金額が明確か、通常損耗まで負担することが説明されているかなどが判断材料になります。まずは契約書や重要事項説明書を確認してください。
ー「退去時の掃除」と「原状回復」は混同されがちですが、どう違うのですか?
退去時の掃除は、ゴミや私物を撤去し、床や水回りなどを日常的な範囲で清掃して、部屋を明け渡せる状態に整えることです。一方、原状回復は、借主の故意や過失、手入れ不足などによって生じた汚れや損傷を修復することを指します。例えば、家具による床のへこみや日焼けによる壁紙の変色は原則として貸主負担ですが、放置した飲み物によるシミや結露によるカビ、喫煙による変色・臭い、ペットの傷、掃除不足で固着した油汚れなどは借主負担となる場合があります。
ただし、借主に原因があっても修繕費用の全額を負担するとは限らず、入居期間や経過年数も考慮されます。退去前には通常の掃除をおこない、契約内容を確認したうえで、不明な点は管理会社へ相談すると安心です。
◆大庭辰夫(おおば・たつお) 株式会社マーキュリー取締役
借地権・底地をはじめ、不動産買取、不動産開発、不動産管理などを手掛ける。不動産に関する専門知識を生かし、住まいや不動産に関する相談・情報発信をしている。
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