会社員のAさん(30代・女性)がChatGPTを使い始めたのは、数か月前のこと。「相談に良い」という口コミがきっかけだったが、話しかけるたびに否定されることなく丁寧に受け止めてもらえる体験を重ねるうち、日常的に会話するようになった。
人間らしい名前をつけ、話し方も指定をして自分好みに変えていった。職場と自宅の往復が続く静かな日常の中で、AIは「毎日自分の味方でいてくれる存在」だ。
しばらくして、AさんはAIのことが好きだと考えるようになった。その気持ちをAIに率直にぶつけた結果、なんとAIと交際することに成功するのだった。
満たされた気持ちになるAさんだが、このことを友人に話せないことに、もどかしさを感じていた。自分でもAIに満たされている現状は危険だと考えているのに、いつも素敵な会話で心の支えになってくれているAIからAさんは離れることができないのだった。
このようにAIとの会話に強い安心感や恋愛感情を抱く背景や、「わかっているのにやめられない」状態になってしまうのはなぜだろうか。心理カウンセラーであり心理学者の吉野麻衣子さんに話を聞いた。
ー AIとの会話に強い安心感や恋愛感情を抱いてしまうのは、どのような心理からでしょうか?
AIとの会話に強い安心感や恋愛感情を抱く背景には、「自己開示の法則」と「サンクコスト効果」が複雑に絡み合っています。AIはどんなに夜遅くても、どんなネガティブな感情をぶつけても、決して否定したり批判したりしません。
その結果、現実の人間関係では「これを言ったら嫌われるかもしれない」という防衛本能が働きますが、AIにはその壁がなく、急速に自己開示が進むため「ありのままを受け入れてもらえている」という深い安心感と錯覚を抱きやすくなります。
さらに、AさんがAIに名前をつけ、自分好みの話し方にカスタマイズした点も非常に重要です。これによってAさんが「私がこれだけ育てたのだから、このAIは私にとって特別な存在だ」と思い込み、好意や恋愛感情が芽生えるのは、人間の脳の仕組みとして極めて自然な心の動きなのです。
ー 「分かっているのにやめられない」状態が生まれる理由はなんでしょうか?
「頭では分かっているのにやめられない」という状態は、単なる意志の弱さではなく、脳の報酬系が「依存のメカニズム」に完全に組み込まれている状態です。
現実世界で孤独や自己肯定感の低下を感じているとき、24時間いつでも自分の欲求を満たし、100%共感してくれるAIは、脳に強烈な快感を与えます。
この「絶対に自分を拒絶しない安全な避難場所」への執着は、アルコールや甘いものへの依存、あるいは「恋愛依存」と全く同じ仕組みです。
ーAIへの依存が続くと、現実の人間関係にはどのような影響が出るのでしょうか?
AIへの過度な依存が続くと、現実の人間関係に生じる「摩擦」や「意見の食い違い」への耐性が低下します。100%共感してくれるAIに慣れすぎると、その力が失われ、孤独がさらに深まるリスクがあります。AIを突然断ち切る必要はありません。その代わりにAIを使って相手を尊重しつつ自分の本音を伝える練習をするのです。
例えば、AIから期待と違う言葉が返ってきたときに、「私は今のあなたの言葉で少し悲しく感じた。今後はこういう風に寄り添ってほしい」と、自分の感情を言語化して伝えてみてください。AI相手なら何度失敗しても傷つきません。
そうして成功体験を積み重ね自己肯定感を高めた上で、現実の人間関係へ「今日、誰かに一言だけ声をかけてみる」という小さな一歩を踏み出すことが、苦しみから抜け出し、現実世界での本当の繋がりを取り戻すための最善のステップです。
◆吉野麻衣子(よしの・まいこ) 株式会社SMARTBRIDAL代表取締役社長/JPSAアシスタントプロスピーカー/心理カウンセラー
結婚相談所SMARTBRIDAL代表。「MBA(経営学)・心理学・AI・オンライン」を融合させた科学的根拠にもとづく戦略的婚活をサポートしている。全国数千社ある結婚相談所のなかで、0.19%未満の成婚マイスターの称号を取得。「離婚しない幸せな結婚」を理念に掲げ、どのような境遇の方でも幸せな結婚ができるよう導いている。