自民党が衆院選(2月8日投開票)で全465議席中、公示前の198議席から、単独で3分の2を超える315議席を獲得して圧勝した。高い支持率を追い風に、高市早苗首相は第2次内閣を発足させたが、前任者である石破茂前首相はこの状況について何を思うのか。ジャーナリストの深月ユリア氏が本人を直撃した。
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東京・永田町の衆議院第二議員会館内にある石破茂事務所に入ると、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」の人形が置かれていた。石破氏はミャクミャクに愛着を示し、「総理大臣感謝状」を贈っていた。その横にはトランプ米大統領とのツーショット写真も。2025年2月の日米首脳会談時に撮影されたもので、「あなたは、偉大な総理大臣になるでしょう」と英語で記されたトランプ氏のサイン入りメッセージも添えられていた。
記者にとって取材で数度訪れていた部屋だが、改めて首相として過ごした激動の1年を感じさせられた。石破氏は日本の民主主義に少なからぬ問いを突きつけている今回の選挙結果を受けて思いを語った。
「1月(公示)の解散総選挙というのは、平成2年(1990年)の海部内閣以来、36年ぶりでした」。そう切り出した石破氏は「今回の方が自然条件はより厳しかったと思います。日本海側は記録的な豪雪に見舞われ、鳥取県でも吹雪によるホワイトアウトが発生。これまで全国でも高投票率の常連だった鳥取県は今回47位でした。少なくとも降雪地域では有権者が主権者としての権利を行使するのに最適な時期とは言えなかった」と付け加えた。
さらに、石破氏は「政策論争の希薄さ」を指摘した。同氏は「今回の選挙で、何が争点でしたか?…と聞かれて、明確に答えられる人は多くなかったのではないでしょうか」と問題提起。「減税をすれば財源に穴が開く。その穴をどう埋めるのか。あるいはどの給付をどう削るのか。国債を増やせば金利が上がり、円安が進み、物価が上がるという流れを、どこまで説明したのか」と問うた。
また、人口減少やコメの減反政策について、石破氏は「人口減少を止めるためには地方創生、地方の潜在力を最大化して、人生の多様な選択肢を実現できるような環境づくりが必要です。コメ政策について、石破政権では減反政策を完全に廃止しましたが、高市政権におけるコメ政策についての政策論争はほぼ行われませんでした。世界には日本米への需要があるのですから、コメは増産して世界各国に輸出すべき。また、山と人里の間の田んぼを増やせばクマ対策にもなるのです」と提言した。
高市首相が今回の選挙を「首相を選ぶ選挙」と位置づけたことにも疑問を呈した。石破氏は「日本は議員内閣制を採用していて、総理大臣は国会が選ぶ。国民が直接選ぶ制度ではありません。でも小選挙区を導入する際に『党首の顔で選ぶ選挙』だと論争がありました。今回の選挙はまさに高市総裁の顔で選ぶ『大統領制』みたいな意味合いがあったのではないでしょうか」と分析した。
今回の選挙では、石破政権で総務相を務めた村上誠一郎氏が比例四国ブロック単独10位に。結果的に今回の自民圧勝で村上氏も当選したが、その処遇に関しては、石破政権が高市氏に近いとされる“裏金議員”を前回の衆院選(24年10月)で非公認にしたことへの「仕返しではないか」という憶測も一部に残っている。
石破氏は「前回の衆院選で、国民の世論はいわゆる不記載問題に厳格な対応を求めていました。非公認にしたことの責任は当時の総裁であった私にあります。しかし、それと今回の選挙における比例の対応とは何の関係もないと私は信じています」と状況を俯瞰した上で、「村上さんは小選挙区を他の候補に譲り、その代わり、前回に続いて今回も連続で比例は上位に、『事実上の1位にしよう』という話でした」と明かした。同氏は「党幹部からもしかるべき説明があるでしょう」と、この件に関して現時点で明確な説明がないという党執行部にクギを刺した。
最後に、石破氏は「今回の選挙結果が、国民にとって、国家にとって良い結果をもたらすように、我々自民党議員は勝利に驕(おご)ることなく努力を続けなければならないと思っています。『戦争に行った者が政治の中心にいる間、日本は大丈夫だが、いなくなった時が怖い』という田中角栄元総理の言葉があります」と“師”の金言で締めくくった。