1980年代前半の日活ロマンポルノ黄金期を支え、ハリウッド映画でも熱演した女優・風祭ゆきが7月4~9日に東京・下北沢の本多劇場で上演される映像劇団テンアンツ」の舞台公演「ひとくず」に出演する。風祭が同作の役どころと共に、改めて当サイトに対して約半世紀に及ぶキャリアを振り返った。
同劇団への参加は主宰者の上西雄大が監督した映画「西成ゴロー」シリーズの3、4作への出演から始まった。舞台は昨年9月の公演が初出演で、今作は2020年にヒットした上西監督の映画「ひとくず」の舞台版。上西演じる主人公の少年時代の元担任教諭で、子ども食堂を運営する女性を演じる。
上西から「映画にはない目玉の役です」と説明されると、風祭は「ありがたいです。『ひとくず』という映画は何回見ても大泣きしちゃうんですけど、(舞台版では)主人公の人間性を形作り、この先を生きていく一歩となる役ができたら。子ども食堂についても背景にある問題を考えています」と意欲を示した。
1973年からテレビドラマに出演し、77年に新藤兼人監督の「竹山ひとり旅」で映画デビュー。80年、にっかつロマンポルノ作品「赤い通り雨」で27歳にして主演デビューし、看板女優の1人として20本以上に出演した。転機となったロマンポルノ挑戦から45年。その決意を後押ししたのは映画界の巨匠だった。
風祭は「相談させていただいた大島渚監督から『どんな小さな作品でもいいから、とりあえず1本くらい主役やらないと辞められないでしょう』という感じで言われまして、『ああ、そうだな』と思ってやったのが最初ですね」と振り返った。
近年、ロマンポルノ作品が上映される映画館で女性客の姿が多く見られるようになった。昨夏、女性の企画による特集上映が都内の名画座で開催され、風祭が登壇したトークショーは満員札止めの盛況だった。
風祭は「自分たちがやっていた頃の目標として『同性の人が観て共感してくれるような時代が来てくれるといいね』と、みんなで言いながらやっていたので、そんな時代が今やっときて、うれしいなと思います」と歓迎した。
ロマンポルノ作品が女性に共感されている現象について、風祭は「ただ(男性に)やられっぱなしではなく、最後に『女の人はちゃんと二本足で地面に立って強く生きていく』というテーマがある。それは演じている私たちも救いでしたし、その辺が今、観る女性の方たちも感じてくださっているのかなと思います」と代弁した。
数多い出演作から印象的な作品について聞いた。三宅島で撮影した「闇に抱かれて」(82年)は「女2人と男1人の話で、地味ですけど、私はすごく好きです。脚本の段階から(ストーリーを)のぞかせてもらったほどでした」。また、若き日の内藤剛志と共演した「美姉妹 犯す」(82年)では「物静かな姉の役だったので、ずっとそのようにしていたら、後年、内藤さんと仲の良いお友だちから『(風祭は)現場でツンツンしていた…と言ってました』と伝えられ、『うそ~、そんなことないよ~』って内藤さんに電話したことがあります(笑)」と懐かしんだ。
今世紀に入ると、クエンティン・タランティーノ監督の米映画「キル・ビル」(03年)に出演。日本料理店の主人役でコミカルな演技を披露した。
オファーのきっかけについて、風祭は「私が出演した映画『殺し屋1』(01年、三池崇史監督)をタランティーノ監督が観られていて…ということでした。監督が『あなた、こうこう、こうやってたでしょ』と私の演技を自ら再現してくださり、うれしかったですね。映画オタクで日本の映画もたくさん観ておられるので、私が出た日活の作品もご存じで、現場でお話しもしました」と回顧した。
音大の声楽科を卒業。実は「オペラ歌手になりたかった」という。「体が小さくて、やせていたので声量がなく、演技力を磨こうと足を突っ込んでそのまま今に至ります。でも、心の底であきらめてはいないです。舞台で歌うシーンも時々ありますしね。カンツォーネが好きで、いずれはそういった曲も歌えたら」と意欲を示した。
舞台「ひとくず」は7月の東京公演に続き、10月の大阪公演への出演も決まった。風祭は「上西監督に出会えてよかった。コートのスソにくっ付いて行きたい。ワクワクしながら脚本を待ってます!」と瞳を輝かせた。