もし、AIが声優を務める時代になったら…?そんな仮想未来も、あながち絵空事ではない時代になってきた。アニメ先進国である日本において、声優界のレジェンド的存在である三ツ矢雄二(70)はどう受け止めているのだろうか。ネットでの「声優予備校」を始動した三ツ矢がよろず~ニュースの取材に対し、声優という仕事のあるべき姿や将来性、さらに自身の原点となった作品について語った。
「三ツ矢雄二の声優予備校」は昨年11月に開校した。
「声優さんになるための『基礎の基礎』を勉強します。滑舌やアクセント、イントネーションといったテクニック面を伝え、僕が早口言葉とか標準語を言った後に『はい、しゃべってください』といったレッスンを反復練習していただく番組をネット配信で購入いただくという形です。『こういうことを事前に勉強しておけば声優の養成所とかに入る時に便利ですよ』という、小学生から大人に至るまで幅広い方にお勉強いただける内容になっています」
2023年6月、三ツ矢は都内で開催されたアニメ映画「夏への扉」の上映イベントに参加した際、声優業界の現状に「どうしても平均値を求めてしまう。僕らの時は0点か100点でいいような機運があり、思い切って演技ができた。現在は声優、そして若い人が増え、競争が激しく、ある意味過渡期だと思う」との見解を示し、「AIが出てきても声優の仕事はなくならない。人の心は人の心でしか演じられない」と持論を語っていた。
そこで、改めて「AI」について問うた。
三ツ矢は「AIがどこまで発達するか分かりませんが、人の感情すらも表現できるようになるかもしれない。例えば、洋画の吹き替えだったら、『トム・クルーズの声で日本語をしゃべらせることができるようになる』かもしれないので、AIの脅威はひしひしと感じております。ただ、セリフの元になるのは人間の感情ですから、そういう部分で『声優』という職業はなくならないと思っています」と指摘。その上で「なくなってほしくないと思っています」と付け加えた。
また、現在の声優界で「平均値を求められる」傾向についても私見を述べた。
「今、若い声優の方たちは本当にお上手で、演技に破綻もなく、みなさん優秀です。ただ、きちんとやり過ぎるので、没個性というか、この役を誰がやっても遜色ないんじゃないかと思うこともある。僕たちが現場にいる時代は、滑舌が悪い人がいたり、(口パクに)合わせるのが苦手という人もいましたけど、アドリブ一つにしてもすごく個性的だった。ある意味、自由にやらせてもらっていたのが、今はマニュアルに即してやっているような気がしてしまいます」
さらに、三ツ矢は「僕なんかが危惧しちゃうのは、若い声優さんたちが使い捨てにならないかということです。ギャランティーが上がったら、また次の若い人を使うというふうにならなきゃいいなと。プロデューサーやディレクターさんが『この子いいな』という声優さんを認めたら、次は違うタイプの役で演技の幅を勉強してもらおうという考え方を持ってもらうと、若い声優も育っていくのではないかと。出来上がっているのではなく、まだ伸びしろがあると感じさせる声優さんが出てくれたら」と思いを吐露した。
三ツ矢と言えば、アニメ「タッチ」(フジテレビ系、1985-87年放送)の上杉達也役が世間的には〝代名詞〟になっているが、原点となる代表作は何だったのか。
「洋画の吹き替えでやった『アマデウス』(84年製作)のモーツァルト役です。代表作は『タッチ』だとよく言われますが、それ以前に『アマデウス』があったから、その先を続けて来られたという気がします。『三ツ矢って面白いよ』という口コミが業界に広がって仕事が増えたというところもあり、あの作品は僕にとって一番大きい存在。次のステップに行くための作品だった。僕自身が映画の中でモーツァルトをやっているがごとく、すごく感情移入した役の一つです。大きな仕事をしたんだなと感じています」
同作の日本公開(85年2月)から40年。劇中で描かれた天才音楽家の破天荒で「人間くさい」一面は、三ツ矢が理想とする振り幅の広い「自由」を許容する声優という仕事に通じるのかもしれない。