韓国で2024年12月29日、済州(チェジュ)航空2216便が滑走路を離脱し、乗客175人と乗務員4人が死亡、生存者はわずか2人の乗務員という痛ましい事故が起きた。韓国の行政安全部は事故当日から、25年1月4日までを「国家哀悼期間」にすると発表。各放送局は、年末恒例の授賞式の生放送を休止(レッドカーペットは中止)し、レギュラー放送やドラマ、イベントなどの日程が変更されるなど、一気に自粛ムードに転じた。
また、日本の音楽番組に出演した韓国アイドルたちは、衣裳に喪章をつけてステージに立ち、哀悼の意を表した。
そんな韓国の「哀悼期間」とはどんなものなのだろうか。韓国政府によれば「君主制国家における君主の崩御、社会で尊敬される人物の死(主に元・現大統領が対象)、多くの犠牲者が出た事故などが、公式に宣言される一般的なもの」だという。
国家レベルでの哀悼期間は、行政権を持つ政府首脳もしくは、国家元首が公式に宣言するのが一般的で、期間は3日、1週間、10日から、長くても1カ月程度とされている。ただ、この宣言についての法的根拠や基準は明確に定められておらず、一部からは規定の必要性を訴える声が上がっているようだ。
その批判が大きなものとなったのは、22年10月29日に発生した「梨泰院(イテウォン)雑踏事故」において、国家哀悼期間が公式に宣言されたことに端を発する。当時、ソウルの繁華街として知られる梨泰院で、ハロウィーンイベントが盛り上がる中、狭い傾斜のある道路で群衆雪崩が発生し、わずか1時間で159人もの命が奪われた。
海外の事例では、主に国家元首の死亡、爆弾テロ、大地震などが指定される傾向にあるが、韓国政府発足以来、韓国では「天安艦被爆事件」で一度宣言されたのみ。基準がないとはいえ、概ね海外の事例と似たようなものであるため、大きく問題視されることはなかった。しかし、2度目の宣言が「梨泰院雑踏事故」であったため、それ以前に発生した「大邱(テグ)都市鉄道放火事件」(03年・犠牲者192人)、「セウォル号沈没事故」(14年・犠牲者299人)に宣言されなかったことを疑問視する声や、基準がないことに対する批判が生じた。
現在も、「国民感情を強制する法律は作るべきではない」「簡単なガイドラインくらいは、作る必要がある」など、さまざまな意見が寄せられており、今回の飛行機事故で再び注目ワードとなった「国家哀悼期間」について、韓国では今後も議論が交わされることになりそうだ。