学校教育現場のデジタル化は世界的に進んでおり、日本でも広がり始めている。先進的な取り組みと良好な結果で世界的に評価を得てきたフィンランドの公教育制度ももちろん例外ではない。しかし、フィンランド・リーヒマキの学校では、昔ながらの授業風景が展開されている。生徒はノートPCやタブレットではなく、「ペン(鉛筆)と紙」を使っているのだ。
ヘルシンキの北約70キロの町が開始した取り組みである。最近まで多くの学校では、11歳を迎えた児童全員にノートPCを無償で配布していた。急速にデジタル化は進んだものの、近年、フィンランド全土で子供たちの学習成果は徐々に低下していることが明らかになった。
リーヒマキでは2018年以降、市内の中学校でほとんどの教科書の使用を取りやめていた。フィンランドの親や教員の間では、デジタル機器の画面が子供に与える影響へ懸念が高まっていた。リーヒマキの取り組みに協力する専門家は「スクリーンの前で過ごす時間は最小限にすべきで、何時間も費やすのではなく、それより少ない時間にするべきだ」と述べた。
臨床神経心理学者のミンナ・ペルトプロさんは「脳はマルチタスクに非常に弱く、特に若年層ではなおさらだ上手に処理できない。(子供は)コンピュータで数学をして、インスタにメッセージがないか確認しに行き、また数学に戻って、さらにスナップチャットにやって、また数学に戻るということをやっている」と、実情を説明した。
フィンランドの10代の若者は現在、1日平均6時間もスクリーンを見つめているというデータがある。ペルトプロさんは、デジタル機器の過度の使用は、目の問題や不安の増大など、身体面・精神面両方のリスクを伴うと指摘する。フィンランド政府は、授業中に携帯電話などの個人用機器の使用を禁止する新たな法律の制定を計画している。
14歳のある生徒は、「ノートPCをもっと使うようになって、時々他のウェブサイトを見てしまうようになったのかも。重要なことに常に集中していたというわけではないかもしれない」と話した。
英語の教員は「若者たちが授業中により集中できるようになり、気が散ることが減ったと思う」と生徒の様子を話した。リーヒマキで起こっている“原点回帰”の状況を教える側も歓迎しているようだ。